クラフトバンク総研

名古屋市造園建設業協会・愛知県造園建設業協会

更新日:2025/3/24

【専門工事業者の生きる道を模索】

 2024年11月に本陣(名古屋市東区)の梅岡美喜男社長が、黄綬褒章を受賞した。1976年の創業以降、建設業界に精励した軌跡が確固たる功績として称えられた。梅岡社長は、名古屋市造園建設業協会で理事長、愛知県造園建設業協会では会長を務めており、今なお「造園業界の発展には何が必要か?」を24時間考え続けている。名古屋市造園建設業協会を創設し、理事長に就任した時期が2012年。旧態依然とした業界の中では、前例踏襲が慣習となっており、新たな打開策の追求を快く思わない層も一定数は存在していた。しかし、「このまま何の策も打たず傍観すれば、造園業界の崩壊に繋がる」と覚悟を決めた上で両協会のトップに就き、団体を通して専門工事業者の生き残る道を模索してきた経緯がある。

【利益が出る状態での競争環境を形成】

 梅岡社長が、名古屋市造園建設業協会の理事長に就任する以前は、一般および指名競争入札制度を取り入れていたことにより、半分程度まで落札価格が下がり、業者は過度な低価格競争を強いられてきた。この状況を危惧し、梅岡社長は「工事だけでなく、管理にも最低限価格を設けるべきだ」と主張。団体の総意として名古屋市に「半額での落札が続くと工事自体に手抜きをする企業が続出し、業界の弱体化に直結する」と定期的に要望を出したことで、徐々に予算も付くようになり、利益の出せる状態下で自由に競争できる環境を構築した。公共工事全体を増やし、最低制限価格を上げ、同業者間の低価格競争を回避できたことで、「仕事を引き受けたならば、造園企業は良い仕事をする必要がある」という前提認識を定着することに努力した。特に名古屋市では、価格だけでなく過去の実績・技術力など全てを評価した上で落札者を決める総合評価方式の採用を実現。これが追い風となり、現在は「施工現場で結果を残せれば、次の仕事に繋がる」というポジティブな循環を生み出し、会員間で技術の研鑽・向上をモチベーションにする契機に作れたという。「現状のままだと新規参入企業が不利になるのでは?」との指摘にも「確かに一理ある」と理解を示しており、理事長として全体のバランスを考慮しながらの組織運営が継続できるか注目である。

【現場で結果を残した企業に評価を】

 名古屋市にある街路樹を見る度に、梅岡社長は「現場で最善の施工・管理を実施した企業を評価してほしい」と心の中で本音を呟く。5~6年前には1度、東京都江戸川区が導入している、街路樹の維持管理を3年の随意契約で結ぶ方式を適用した。これは3年に1度の単年契約で進めると、業者は次年度の木々の成長に配慮せず必要以上に伐採してしまい、美しい景観が保てなくなる状況を憂慮した上での選択だった。長期的な視点に立ち、これまで成果を残した企業が、複数年ほど責任を担えれば、毎年の手入れを念頭に置いた管理が可能になると考えた案だったが、「多くの会員からの猛反対を受け頓挫した」と苦々しい過去を語る。丁寧な仕事に取り組んでも評価を受けない現実。日本造園建設業協会に街路樹剪定士認定制度があるように、名古屋市でも質にこだわりを見せた講習会を開催し、参加した企業に加点が付く仕組み作りを進めるべきではないか。また、公共工事の管理でも総合評価方式を組み込み、点数を付けられる形も検討するべきではないか。これらの思索の根幹に共通する思いは、梅岡社長の「良い仕事を執り行った会社が増え、県内にある街路樹を鮮やかな風景に変えてほしい」という基本理念。現状では入札技術のみで落札し、工事の質を最優先にせず短時間で業務を進めるシーンが散見する。課題は山積みの状況だが、「この現実を良き方向に軌道修正し続けることが私の使命」と明確な意思を示し、日々の業務に奮闘する姿が印象的である。

【世代交代も見据える】

 愛知県造園建設業協会の会長を担ってから8年が経過したが、同職については「後継者にバトンを引き継ぐ最終段階に入った」と本音を語る。新会長就任に当たる最重要事項を「自社だけでなく、常に業界全体の利益を考えられること」と明言。長年、2つの団体のトップとして指揮を執ってきた経験から、少しでも疑問を持たれ兼ねない言動が出れば、「結局、自分の会社の都合しか考えてないじゃないか!」と会員全体から異議を唱えられることは熟知している。会長としての一挙手一投足に注目が集まる確固たる立場。これまで梅岡社長が一貫して振る舞いを律し続けてきたように、全力を尽くすのは仕組み作りで、生み出せた需要を会員全体に分配する胆力があるか。新会長に尋常でないプレッシャーが掛かるだけに、人選は難を極めそうだ。

【優秀な監督・技術者を育成する】

 会員間でも「今まで通りでは通用しない」との危機感は共有できている。この現況を歓迎しながらも梅岡社長は、「真っ先に取り組むべきは、優秀な監督・技術者の育成に全力を尽くすこと」と応急処置策を提示する。もちろん職人も欠かせない要素だ。しかし、行政側の工事検査員も含め、適格に専門技術を学んだ管理者を配置できなければ、怠慢な業務が常態化し、造園業界が埋没していくことは目に見えている。自身が経営を取り仕切る本陣では、「前年の実績は、次年度には0.8掛けに変換される。この真理に基づき、当社では早期から土木事業に進出するなど、常に新たな選択肢を設けるようにしてきた」と実体験を挙げる。両協会には、頻繁にボランティア活動などに参加しているにも関わらず、自社の仕事に繋げることができていない会員も少なからず存在する。この現況を少しずつでも変えて見せる。「いつ辞めても良い」との覚悟は併せ持ちつつ、業界の活性化を追求する姿勢には鬼気迫るものがある。自社の本陣では、更なる可能性拡大を目的に、中国での事業展開を手掛けてから6年が経過した。これまで培った知見を両協会に還元に還元し、団体の永続に向けた動きを強める。愛知県の造園業界がどのようなに変化していくかは、今後の建設業界に着目する上でも重要な分岐点となり得る。

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