島根県建設大工工事業協会
更新日:2025/6/26
【地域・団体の特色を活かす】
島根県建設大工工事業協会は、(一社)日本型枠工事業協会の島根支部として型枠大工の発展のため、団体として技術向上や改善、普及促進などの実現を目指している。15年以上も会長を務める人物は、赤名健司氏(富士ビルド・代表取締役)。優良な建造物の建設を通して、会員であるプロフェッショナル集団を束ね、型枠工事業の魅力・存在意義などの発信強化を試みている。島根県における建設業の特色として、赤名会長は「元請けとなる地場ゼネコンが、専門工事業会社の雇用安定を考慮し、無理に職人の単価引き下げに走らないこと」を挙げる。自身が経営する富士ビルドでは、当初から月給制を導入しており、常に優先すべきは「働いた分の給与を毎月きちんと従業員に支払い続けること」と認識。当たり前のようだが、これらの遂行には単価の確保が重要なテーマとなり、屋台骨を支えられている現状に感謝しつつ、新たな突破口も模索する日々を送っている。

【型枠工事の魅力を伝える重要性】
昨年11月に島根県立産業交流会館では、「しまね技能フェスティバル2024」が開催された。同フェスティバルは、県内で職人が所属する各団体が、子供たちに今まで培った技術を披露するイベント。島根県建設大工工事業協会も出展し、型枠工事の会員が腕前を見せたが、赤名会長は「学校の先生などから平然と『型枠工事って木造の基礎工事と思っていた』と言われ、型枠の魅力を伝える難しさを痛感した」と振り返る。2024年4月からは、建設業界にも時間外労働上の上限規制が適用されたが、専門工事会社が成果を上げている気配はない。最近では、顕著な担い手・人手不足を考慮し、大手企業・地場ゼネコンまでも工業高校の卒業生を新卒で採り始めたことにも頭を悩ませており、「モノづくりの奥深さ・興味深さを後世に継承するためにも、大卒に特化するなど特異な採用活動も検討するように変わってきた」と本音を漏らす。高校や専門学校にも定期的に出前授業に出向いてはいるが、「もっと型枠工事の素晴らしさを上手に伝える必要がある」と考える気持ちは高まる一方の状況が続いている。

【ゼロからでも育成できる体制強化を】
県内には、「技能実習生を採用するために、週休2日を導入しよう」と目論む経営者も居るが、赤名会長は「実は以前、当社も実習生を受け入れていたが、2011年の東日本大震災の発生直後、ブローカーと共に消えてしまったというトラウマがある。最悪の事態を想定する必要性はあるが、協会としては安易な動機で実習生に頼るのではなく、ゼロからでも技術の習得・修練が可能な体制を構築したい」と率直に語る。課題は様々な分野にあるが、全てを解決するための第一歩は、「職人の地位向上を実現すること」。国土交通省は土木の管轄には強く進言するも現実に対し、建築関連の分野は控える傾向があるなど問題点なども存在するが、「建設業界をより良い世界に変えていく」という共通の思いを叶えていくためにも、是々非々での判断が今後の鍵となりそうだ。

【理想の追求を諦めず続ける】
赤名会長は、「型枠工事業が若年労働者を確保するには、協会全体で他業種に負けない賃金・休日を設定し、若者を更に惹き付ける要素を取り組むべき」と持論を述べる。建設業は、自身が携わった案件が後世にまで残り、「特に難しい仕事ほど何年経っても脳内で施工方法の詳細まで描くことができる」と真剣な眼差しで語る。赤名会長自身も孫と一緒に歩きながら「この建物は、お爺ちゃんが関わったんだよ」と伝えられる現実がこの上なく誇らしく、「この醍醐味を体感できる、やる気ある人を1人で多く育てる」という使命を残り少ない重要な任務と定めているという。「長年、技能検定試験の検定委員を務めているが、日本人の受験者が激減した半面、技能実習生の随時技能検定受験者が増加の一途を辿る変化は顕著だ。動かし難い状況に直面している現実はある。しかし、協会としては理想を追求することも諦めず、会員全社で与えられた環境でベストを尽くしていきたい」と固い意志を見せた。
この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。