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新藤義孝前経済再生担当大臣・全国仮設安全事業協同組合 青年部

更新日:2025/10/16

【仮設足場の安全点検を再開】

コロナ禍で活動を見合わせていた全国仮設安全事業協同組合(ACCESS)・青年部が本格的な活動を再開し、9月8日に仮設足場の安全点検を5年半ぶりに実施した。全国から集まった36人の青年部会員が、千葉市中央区、東京都世田谷区、横浜市鶴見区の計3箇所の工事現場で仮設足場の安全点検を行い、施工業者に対し事故防止の徹底を呼び掛けた。

仮設足場の安全点検は2012年7月から青年部が開始した活動で、これまでに19都道府県71現場で安全点検を行っている。ACCESS前理事長の小野辰雄氏が「足場からの墜落事故をなくすこと」を掲げ、継続してきた重要な活動。この確固たる理念に共鳴し、長い期間をかけて伴走を続けてきた人物が、衆議院議員・前経済再生担当大臣の新藤義孝氏(日本建設職人社会振興議員連盟会長)である。ACCESSでは近年、仮設足場の安全点検を従来の紙による点検ではなく、「仮設安全監理者専用点検アプリ」を活用するなどDX化も推進。専門工事団体としてユニークな動き・役割も見せている。今回は、青年部活動の再始動を記念して開催した、ACCESS・青年部のメンバーと新藤議員の座談会をお届けする。

【安全衛生経費の更なる浸透を】

冒頭、新藤議員が「まず、ACCESSの皆さまが日頃から自分たちの仕事の誇りを持ち、小野前理事長の魂を引き継がれていることに敬意を示したい。建設業界から不幸な事故を無くすことは私の使命でもある。克服すべき課題は多いが、可能な限り力を尽くす意向だ」と挨拶。これを受け小岸昭義会長(OGISHI・代表取締役)は、「大変光栄な言葉を頂き恐縮である。当組合でもJAC(建設技能人材機構)との連携を進めるなど、これまでにない展開を見せ、常に業界変革のために力を尽くしている。『掛かった経費は払わなければならない』と、適切な安全衛生経費の確保がゼネコンにも浸透し始めてはいるが、認識が不十分なケースも目立つ」と提言。新藤議員は「必要な安全衛生対策の実現には、確認表と標準見積書などの取り組みを進め、経費の適切な支払いに繋げることが何よりも重要。現場で働く職人の処遇改善は、より良い人材を獲得するための第一歩。この点を留意した対策を手掛けていく」と断言し、更なる改良を進める意志を明示した。

【アシストスーツで負担軽減】

長引く不況や急激な物価高騰など、外的要因により低迷が続く状況にあるが、新藤議員は「最優先事項は、経済の構造を時代に合わせるよう転換し、成長できる枠組みを作ること」と宣言。2030年以降は、現在と比べ物にならないほど生産人口が減少し、人手不足も急速に悪化すると見込まれている。千田英治幹事(エイチ・専務取締役)が、「ドイツは、日本の2/3程度の人口にも関わらず、約6割の労働時間で日本のGDPを上回る実績を残している。日本も従来にない生産性向上の具体策が不可欠」と伝えると、新藤議員は重量物の持ち上げ・下げ時に身体への負荷を軽減するアシストスーツに関して言及。自ら「アシストスーツ推進議員連盟」を立ち上げ、その会長も務める新藤議員はアシストスーツについて「当初はモーターを装備したロボットのように重い製品だったが、今は空気を圧縮し、ギアを活用したパッシブ型を導入することで軽量化も実現した。最前線で働く建設職人の職場環境を改善・向上できるよう全力を尽くす」と答えた。建設業だけでなく、農業・介護・除雪など幅広い分野での負担を軽減するなど、新たな市場が拡大し始めている。

【単価を上げる過程の必要事項】

副会長の江幡良太幹事(東秀興業・代表取締役)は、「保険も入れず『労災は隠せ』と言われた時代と比べると、建設業界は様々な部分で大幅な改善を見せている。しかし、それでも他産業から見ると前近代的な手法がまかり通っている現実に直面する。専門工事会社を経営する立場からの一番の願いは、単価をきちんと上がるルールが確立され、適正な運用が続けられること。現状ではあらゆる物事が元請けの判断に任されて進められる要素が強いため、これを前提とした改善が必須と感じている」と意見。これを受け、新藤議員は「今、お伝えされた全ての内容に同意する。ただ、その際のポイントは『ウチだけは安くても構わないから受注したい』と抜け駆けをするのではなく、皆で結束して適正受注を確立させることだ。是正の必要性は引き続き説いていくので、ここは団体としてきっちりと団結するスタンスを堅持してほしい」と力強い意志で要請した。

【リスキリング(研修)の重要性】

入職者を増やし社員が希望を抱く環境になるには、入社後の人生設計を想像できる職場を整備する必要がある。具体的には「何の資格を取得すれば、どのようなキャリアプランを築けるかを想像できること」に当たるが、新藤議員は「今後は、技術革新やビジネスモデルの変化に対応するため、新しい知識やスキルを学ぶ『リスキリング』がポイントになると痛感している。国では予算の枠は確保しているが、あまり周知が行き届いていないが故に、使われていない現実も多くある。今後は必要ならば各団体が行っている講習をリスキリングの対象に加えるなど、公的な講習の機会を拡大し受講者を増やす仕組みの導入も検討している」と発言。副会長の榎本智仁氏(SS・代表取締役)は、「これまで資格取得や講習に参加する場合、社員は休日出勤という形で業務を止めて現地に出向いていた現実がある。会社にとっては手弁当の状態が続いていたが、『国が認めた資格でありサポートも出る』という状況に変わると、社員のモチベーションアップにも繋がり、業界全体にプラスの循環を生み出せるはず」と具体案を出すと、新藤議員も「さまざまな資格試験や講習にも補助が出せるように変えていくことで、業界全体を良い方向に導きたい」と全面的に賛成する姿勢を示した。

【業界改善に向けた取り組みを継続】

今回の座談会を通して、新藤議員は一貫して「日本が継続的な経済成長を遂げるため、新たな産業構造を形成することが何よりも重要」と主張しており、小岸会長も「ACCESSも成長戦略を進めるに当たってのプレイヤーとして、実現に向け全力を尽くしたい」と応えた。ACCESSの組合員には公共工事を主軸とする企業も多い。しかし、小岸会長は「青年部としては、民間の戸建て向けなどの企業に対しても、組合員であるかどうかに関わらず同じ足場仮設工事に携わる立場として、分け隔てなく事故を撲滅できるよう最大限努力していく」と明確なスタンスを表明した。建設業界内では、労働基準監督署の運用が地域によってかなり異なるなど、大きな制度や法律だけではフォローし切れない課題も多い。このため、ACCESS・青年部は、日々変わり続ける様々な変化に適時適切な立場で対応し、今後も新藤議員と二人三脚で業界改革に向けた取り組みを継続していくことを誓った。

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