岐阜県左官業組合連合会
更新日:2025/11/12
【魅力ある産業にするために】
岐阜県左官業組合連合会の小倉道生会長(小倉左官店・代表取締役)は、現場と人材育成の両面を重視した業界の下支えを心掛けてきた。現在、最大の課題として挙げるのは、「現場で働く職人を確保すること。岐阜県では、個人事業主として働く職人が多く、体系的に人を育てる仕組みがまだ整っていない」と現状を語る。自身も訓練校の講師として若手の指導に当たり、技術の継承に人並み以上の力を注ぐ。「『最近の若い子は根気が続かない』との声が出始めて久しいが、それだけ時代の転換期が訪れているということ。未経験の若者からも興味を持たれるよう、今いるメンバーで魅力的な業界に変えていくという認識が重要」と前だけを向いている。


【法人化を決意した動機】
小倉会長は商業高校卒業後、名古屋市内での就職が内定していたが、「東京への強い憧れ」から辞退し、都内の訓練校に進学を決め直した過去を持つ。卒業後は、すぐに友人の親方が営む千葉県の左官会社で住み込み修業を積んだ。「生活は決して楽ではなく、苦渋を味わったことも多かった。しかし、周囲の仲間と『同じ釜の飯を食う』経験が職人としての礎になった」と当時を振り返る。小倉左官の6代目として家業に戻り、個人事業主として活動する中、「若者が思う存分に能力を発揮できる環境を作りたい」と痛切に感じ、14年前には法人化を実現。「親御さんが安心して子を預けられる会社に変える必要があった。長い修練を経て独立したいと考える職人を、後押しできる体制も整えたかった」と大切な社員の人生を最優先に考える寛容さも併せ持つ。

【特有かつ繊細な知見を伝承する】
人手不足が更なる深刻化を迎える中、連合会でも外国人技能実習生の受け入れを進めている。「日本の伝統建築や文化財の修復には、文化や美意識を理解した日本人的な感性が欠かせない。この特有かつ繊細な知見を検定試験なども上手く活用することで、日本で働く実習生にも伝承していきたい」と率直を話す。文化財修復の現場に携わる中で、「本物の技術を次の世代を担う若者にもきっちりと伝える必要がある」という責任感は誰よりも強く、常に「今できることは何でも取り掛かる」との姿勢を堅持する。現場には働き方改革の影響も及んでおり、土日の完全休工が進むケースが増えているが、天候や季節次第では工期の調整が難しい局面も多い。「冬場は材料が乾かず、やむを得ず残業が発生してしまうこともある。現実を踏まえた臨機応変な制度づくりを進める柔軟性が求められている」と端的に本質を見極めるセリフが特徴的である。


【左官の魅力を周知する】
連合会では、地域ごとの5ブロックを軸に、左官の魅力を伝える活動を続けている。各支部ではイベントや学校への出前授業を定期的に実施しており、左官職人の技を間近で感じられる機会を増やしている。「左官と言う仕事の価値をもっと広く周知し、若い世代が憧れる業界に変えていきたい。その為には時代に合わせた発信も欠かず行えるよう、常に団体全体でのアップデートを繰り返していきたい」と小倉会長は語る。自社ではSNSや雑誌などメディアに多く登場することで施工事例などを広めており、反響を得る度に手応えを感じているようだ。
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【古き良き伝統工法を継承する】
小倉会長は、「自分の手で仕上げた建物を何十年も残すことができる。歴史に名を刻める左官業は胸を張って誇れる仕事だ」と宣言する。肩の力を抜いた飄々とした柔和な自らの姿勢を「ちょいワル」と笑うが、その眼差しは真っすぐに未来だけを見据えている。人と人との繋がりを何より大切にし、確かな信念で仲間たちを導いてきた揺るぎない実績。年輪のように積み重ねた経験を糧に、古き良き伝統工法を次の世代に継承するために今日も奔走する。掲げるモットーは「温故知新」。先人達から受け継がれてきた左官技術を軸にした、岐阜県左官業組合連合会の旅は今後も続いていく。
株式会社小倉左官店のInstagram:https://www.instagram.com/ogura.sakanten/?hl=ja
この記事を書いた人
クラフトバンク総研 記者 川村 智子
新卒で入社した建設コンサルタントで、農地における経済効果の算定やBCP策定などに従事。
建設業の動向や他社の取り組みなどに興味を持ち、建通新聞社では都庁と23区を担当する。
在籍時は、各行政の特徴や課題に関する情報発信に携わる。2024年よりクラフトバンクに参画。
記者として企画立案や取材執筆などを手掛けている。









