クラフトバンク総研

日本ロープ高所作業協会・ロープワーカーズコミュニティー

更新日:2025/6/2

【日本ロープ高所作業協会の設立】

 今年4月11日に日本ロープ高所作業協会が設立された。前身となるロープ高所作業協会から、事業譲渡の形で「ロープ高所作業における従事者の育成と安全基準の向上」という理念を基に活動を開始した。専務理事の上田雅人氏(4U・代表取締役)は、「建築や土木、ビルメンテナンス、造園など、様々な場面でロープワーカーが活躍しているが、協会としては作業者に方向性を指し示す道案内という役割を果たしていきたい」と考えを述べる。国内法令でロープ高所作業が定められた後でも、「足場より安く施工できます」と喧伝する無足場の会社が現れ、足場会社と不毛な対立を強いられることが多かった。これまで上田氏は一貫して、ロープアクセス(無足場工法)は「足場より安く」ではなく、「足場の弱点をロープで補う」という観点で事業を展開してきており、この概念を協会での活動にも活かしていく方針である。

【法の改正とロープワーカー育成】

 協会として尽力する取り組みを上田氏は「ロープワーカーの育成と法の改正」と断言する。ロープ元年と言われる2016年には、労働安全衛生規則に「ロープ高所作業」が規定された。しかし、法の制定以降でもロープ高所作業者の墜落死亡者数は減少していない。この現実を受け、上田氏は「特別教育」と「ライフラインの設置」の箇所を改正すべきと判断。「『特別教育』は、ブランコ工法を念頭に記述された要素が大きく、現代の主流であるロープアクセスというフィールドに合っていない部分が多い」と1部のみで構わないので修正すべきと指摘する。必須となっている「ライフラインの設置」もリスクに繋がるケースが増えているため、「状況次第では免除も許可するなどの柔軟性が必要」と意見を出す。ロープの結び方が具体的に決められていない為、各々が独自のやり方で実施しており、この流れが事故に直結してしまっている。「ロープアクセスの職場を安全かつ効率的な環境に変えてみせる」と考え続けてきた上田氏ならではの視点であり、これまでの悪循環を断ち切れるかがポイントになりそうだ。協会ではロープに取り掛かりたいが、具体的に何から始めたら良いか分からない人を対象にした講習なども開催する予定であり、現在は具体的な育成手法も策定しているようだ。

【過去の挫折と貴重な経験】

 上田氏には、過去に「ロープアクセスを更に普及させていきたい」と「パラレルアートテクニック協会」という一般社団法人を立ち上げたが、目立った活動もできず解散させてしまった過去がある。協会が発展できなかった要因を「あらゆる物事をトップダウンで進めようとしたこと」と「私自身に何の実績もなかったこと」と分析。意見に相違のあったメンバーの考えを尊重できず、自我を押し通しそうとしたこと。また、周囲に影響力を持てなかった自身の力の無さを痛感し、「まずは自分の会社を発展させて、知名度を上げることに全力を尽くさなければ、業界改善の入り口には立てない」と悟り、自社の組織運営に注力。必死の努力が実を結び、2020年1月にはロープアクセスでのレインボーブリッジの施工に辿り着くことができた。

【ロープワーカーズコミュニティー(RWC)を発足】

 レインボーブリッジの施工では、「ロープ業界の歴史に名を残す仕事をしよう」と銘打ち、4Uの社員12名を含め全国から有数のロープアクセス職人が集結。過去にない大規模な工事となったが、24時間体制の工事を見事なチームワークで完遂できたことで、上田氏の中に「やはり同業者同士で争い合うのではなく、団結するきっかけとなる場が必要なのではないか?」との気持ちが増幅。「協会という形式でなく、気軽に交流を重ねられるプラットフォームを作ろう」と、2020年4月にロープワーカーズコミュニティー(RWC)を発足した。上田氏が管理人として機能するRWCでは、「お互いの違いに共感を求めることはやめましょう。理解することを優先しましょう」というスタンスを推奨。各々のスタイルに関する議論は1度置き、ロープの仕事に誇りを持つ者同士で1つになることを目的に交流を開始した。現在の参加者数は、100社・300人以上に拡大。北陸、東北、中部・西日本、九州など各地域でコミュニティーを運営するまでに波及し、来年には北信越でも立ち上げを予定する程の広がりを見せている。コミュニティーの拡大に比例して、参加者からは「塗装やシールなどの施工を教えてほしい」との声も増えてきた。「このような声に応えるには、正式な講習会が開ける協会を作るしかない」と、日本ロープ高所作業協会の設立を決意した経緯がある。

【足場とロープの弱点を補完し合う】

 建設業界内におけるロープアクセスの比率は、1~2%程度を推移している。このような現況を上田氏は、「これまで同業者で団結し切れなかったことが、世界では主流となっているロープアクセスが、国内では普及できなかった最大の要因だと考えている。足場とロープ。施工において、必要不可欠な双方の弱点を補完し合えるよう、引き続きRWCと日本ロープ高所作業協会の活動を両輪で回していく」と意気込みを述べる。現在は、今回の協会設立に当たり、これまで何となく分断された状態にあった関連する各団体の重鎮に挨拶に回る毎日だという。「新たな物事を始める前に、先人にはリスペクトを持って礼を尽くす。建設業に携わる共通の立場として、業界を良き方向に改善したいという意志は同じはず。時間は掛かる可能性もあるが、当協会としては仁義を通した活動を心掛けていきたい」と見立てを話す姿も印象的である。

【ロープアクセス業界を良くする】

 上田氏のモチベーションの源泉は、創業時から「ロープアクセス業界を良くしたい」という一心である。今後、協会で実施予定の講習会でもインストラクターをRWCなどからも抜擢していく予定であり、これまで長い時間を掛けて培ってきた人脈が1つの目的に向かって集いつつある。上田氏は、「10年後には、大ロープ時代が到来することが見えている」と先を見据えている。しかし、現状では国際技術を学べるトレーニングは存在するが、ロープアクセスが国内のスタンダードに変化するにはまだ時間を要するはずだ。この状況を日本ロープ高所作業協会の設立を機に、どのような変化を生み出せるのか。来年以降は、協会はロープ業界の労働災害防止の啓蒙や、会社・人材の底上げするための活動を実施していく予定である。ロープ高所作業が、今後飛躍的に発展することは間違いない。その過程において、日本ロープ高所作業協会がどのような役割を果たしていくかに注目していきたい。

日本ロープ高所作業協会のホームページ:https://ropeworkatheight.com/

4Uのホームページ:https://4-u.co.jp/

4Uの「業界リーダーに迫る」:https://corp.craft-bank.com/cb-souken/4-u

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