クラフトバンク総研

セントラルウインドアカデミー

更新日:2025/9/29

【セントラルウインドアカデミーが開校】

 今年1月23日に一般社団法人セントラルウインドアカデミーは、「セントラルウインドアカデミー(CWA)」の開校記念式典を開催した。CWAは、風力発電や産業用ロープアクセスのトレーニングを同時に提供できる施設。風車事業に携わる作業員が安全に働くために推奨されているGWOトレーニングを受講できる。「GWO(Global Wind Organisation)」は、風力産業における安全訓練の国際標準の策定を行っている機関。施設内には、高所・ロープアクセスなどの訓練エリアの他、風車のメンテナンス環境を体験できるモニュメント、座学を行う教室、休憩できるフリースペースなどが完備されている。当日の式典には、三重県副知事の野呂幸利氏をはじめ、風力発電事業者や関係団体、地元建設業者など約100名が出席し、東海・北陸・近畿地方に初めて完成した風力発電専門のトレーニング施設としてスタートを切った。

【手遅れになる前に】

 川合淳理事長(富士電設(株)・代表取締役)は、「世界中で風力発電の普及に取り組む中、国内では設備を保守できる人材の育成機関が不足する現実を憂慮し、団体の設立を決断した。風力発電設備保守のノウハウを体系的に学べ、再生可能エネルギー事業分野に新規参入する企業・人材を多く輩出できるようバックアップを続けたい」と意気込みを述べる。経済産業省・資源エネルギー庁では、2050年までに風力発電設備140GWを新たに導入する計画を進めており、実現には相当数の風車の新設が不可欠になる。現在、国産風車メーカーが全て撤退した中、今後建設される風車は全て外国製になることが必須。海外の風力事業者・メーカーの中には、緊急事態が起きた時の知識やスキルを学べるGWOトレーニングの受講を必須としているところもある。この需要に応じるには「現段階から教育施設を作り、風力発電事業の創設・メンテナンスなどに対応できる技術者の育成を加速化すべき」と判断。風力発電には、建設・設備・調査・運用・維持管理など様々な事業者が携わり、多くの雇用も生まれる。川合理事長は、「早急に手を打たなければ、将来必ず後悔する」と強い意志を持ち行動を起こした。

【「事故は起こるもの」を前提に】

 CWAでは、基本安全訓練をベースとして「リアルな現場の状況を再現すること」をコンセプトにプログラムを組んでいる。最も重視する点は、「どのような状況下でも、作業員の安全確保ができる状態を作ること」。訓練では、自分自身の身を守りながら、感電事故を想定した応急処置や作業員が脳卒中を発症した際の対応などのシミュレーションができる。実際の現場に即した内容を体験できるのが大きな特徴。川合理事長は「『もし事故が起きたら~』ではなく、『事故は起こるもの』という前提に立つスタンスが重要。実際の事故発生時に、それまで積み重ねた修練の成果を焦らず発揮できるよう、万全な体制で現場に送り出すことを心掛けている」と基本姿勢を話す。長く建設業に携わる技術者の中には、「可能な限り現場に出たい」と考える人も多いが、現実として、ぎっくり腰やヘルニアに苦しんだ末、仕方なく他業種に移るケースも少なくない。このような状況を考慮し、「重い物をどのように持つか」「1人ではなくチームで運ぶ際は、どのように工夫をすべきか」など、理論を交えながら半日で体得できるプログラムもある。他にもフルハーネス教育、建設作業員の命を守る研修なども提供していく予定。優秀な技術者が本人の意志に反して業界を離れることを防ぐ役割も果たしている。

【脱炭素社会の実現をサポート】

 今年1月から本格始動したCWAだが、川合理事長は「この半年間に、中部電力や日本ロープ高所作業協会など、様々な企業・団体の方に活用していただけたことで、施設利用に関する新たなアイデア・使命を得られた」と実感を込めて語る。これまでは、GWOトレーニングの資格取得に終始していた。しかし、最近では「再生可能エネルギーに関する自給率の向上」という明確な課題を挙げ、「地元中小企業が主役となり、経済循環を強力に推進する枠組みを形成すること」を進めている。日本政府は、2040年度に温室効果ガスを2013年度から73%削減するという目標を掲げており、この達成には電力の脱炭素化や多様な電源資源の活用が必須である。対策が遅れれば、世界市場での競争力に深刻な影響を及ぼす可能性も高い。CWAは今後も、電力設備の整備に携わる技術者をより多く育成するとともに、行政との連携を一層深め、脱炭素社会の実現を力強く支えていく。

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