クラフトバンク総研

宮城県型枠工事業協同組合

更新日:2025/6/3

【絶望の淵から決意した邁進】

「先代から任された会社を潰す訳にはいかない」。

 リアス式海岸と山々に囲まれた南三陸町は、2011年3月11日に発生した東日本大震災で、人的にも物的にも甚大な被害を受けた。宮城県型枠工事業協同組合の沼倉正也理事長(沼正工務店・代表取締役)は、大津波により自宅と社屋が流される悲惨な体験をした。赤字が続いてきた会社を黒字転換できた直後の「まさにこれから」という時期の被災。家族の無事は確認できたが、絶望の淵に立たされる中、少しの間は右往左往した。しかし、翌朝からは自らが会社に唯一残った重機を駆使し、先頭に立ってがれき撤去作業に当たったという有名なエピソードが存在する。父でもある創業者・正夫氏の跡を継いだのが2005年。バブル崩壊以降、公共投資は削減され、民需も冷え込み、建設業界が冬の時代を迎えた矢先の出来事だった。このような中でも社業に邁進し続け、2020年6月には宮城県型枠工事業協同組合の理事長に就任。現在は3期目を迎えており、時代に適応した団体運営を手掛けている。

【働き方改革に適応】

 働き方改革の開始に伴い、国や県が発注した案件でも適用が求められている。これを受け、沼倉理事長は「宮城県でも4週8閉所が徹底され、様々な工夫によって単価も1.3倍ほど上がる形となった」と現況を話す。近年では、歩掛りを見積書に反映することで、元請けであるゼネコンに対して合理的な説明が実施できる状態を実現。社員も十分に休められる上で、昨年の給与水準を上昇する好循環を生み出せている。「当社を含め、組合である会員企業の元請けは地域と密接な関係を持つ地場ゼネコンになる。古くからの付き合いということもあり、丁寧に『これからは、専門工事会社を考慮しなければ、私たちは他の選択肢も視野に入れる可能性もある』と説明をすると、すぐに理解され共存の方向に舵を切って頂けた」と経緯を述べる。組合としての最優先事項は、処遇改善を含めた賃金のアップ。「安くても仕事ができれば良い」という時代は終わり、職人には高い単価で受注した案件を任せ、積極的に休暇も提供できる理念が浸透している。

【良き時期に安定基盤を築く】

 人手不足が叫ばれて久しい昨今を沼倉理事長は、「確かに後継者の不在は深刻だが、『人手不足』と言われると若干の違和感がある」と率直に話す。自社の器量を超えた事業展開を構想すると、無理して採用した人にも仕事を回す必要性が生じ、結果的に安くても仕事を取らねばならないという、負のスパイラルが巻き起こることを熟知しているようだ。特に沼倉理事長は「震災直後の復興需要は莫大なものだったが、その良い時期に経営基盤を築けなかった企業の中には、規模縮小・倒産を選んだ人も少なくなかった。経営は結果責任で時代が変わり続ける中、どの決断をするかで会社・団体の命運は分かれる。この現実を理解した上で、全てと真摯に向き合うスタンスを貫きたい」と明確な覚悟を示す。宮城県内には、20校近い学校の建て替えニーズが存在しており、当面の地元発注の仕事は安泰と考える企業もある。しかし、沼倉理事長は「嬉しい需要なのは間違いないが、これも一過性のものであり、次に備えなければならない」と危機感を示す。組合で月に1度の頻度で開催する定例会でも「専門工事会社として、1社の専属になるリスクは高まり続けている」など、生き残りを賭けたノウハウも積極的に共有する。会員に有力な情報は手間暇かけてでも周知し、「1次・2次・3次の下請けとしても、型枠工事事業者として建設業界を盛り立てよう」という気運を団体内に作り上げている。

【良き影響を全国に波及】

 組合の中には、「青葉会」という青年部会もあり、若手を中心に次世代を担う経営者候補が多く所属している。沼倉理事長が社長を務める沼正工務店からも、次期社長になる予定の息子が参加し、組織の活性化に加わる。内部では同じように3代目へのバトンタッチをするタイミングを計る企業も多い。沼倉会長は、「この良い影響を宮城県内だけでなく、他県との連携も検討することで更に普及しなければ、万が一に備えられない」と経験に基づいた冷静な姿勢を保つ。自身は被災後、2年3ヶ月にも及ぶ仮設住宅での生活を余儀なくされ、「1日も早い復興を」と全力を尽くし続けたことで、地元再生に貢献できた貴重な過去を持つ。「地域のために、全会員で出来ることを全力でやるだけ」。逆境を糧に宮城県型枠工事業協同組合が蓄積した知見が、全国に波及し人々に還元されていく日々は遠い未来ではないはずだ。

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