兵庫県左官工業協同組合
更新日:2025/11/26
【任期満了を前に】
兵庫県左官工業協同組合の嶋田聡氏(島田工作所・代表取締役)は、理事長としての重役を5期・10年に渡り舵取りを担い続けてきた。就任当初から「職人の地位向上」に全力を尽くしてきたが、「その地位は強まるどころか、ますます衰退の一途を辿っている」と警鐘を鳴らす。建物は職人なしには完成し得ない。それにも関わらず、その価値が正当に評価されない現実に対し、「依然として強い危機感を抱いている」と率直に話す。職人にとっての唯一無二の武器は、現場で手掛けてきた実績。長年の知識・経験が蓄積したその言葉には、揺るぎない信念が宿っており、「残る全精力を建設業界の改善・改良に費やしたい」と任期満了を前に強い意志を示す。


【職人の尊厳を取り戻した対話】
民主党が政権を握っていた頃には、全国の公共工事が大幅に削減され、建設業界全体が大きな打撃を受けた。左官業も例外ではなく標準単価は下落し、嶋田理事長が経営する島田工作所の売り上げも3割ほど落ち込んだ。「このままでは社員に給料すら払えない」。追い詰められた末、嶋田理事長は元請け業者への直接交渉を決意。当時、大阪府左官工業組合の理事長を務めていた邑智保則氏(邑智組)にも呼び掛けて、共に立ち上がったことで明確な賃上げを実現させた過去がある。現場を熟知する者同士の連携により打破できた閉塞感。「対話の場は単なる価格交渉ではなく、職人の尊厳を取り戻す闘いでもあった」と振り返る通り、これまで積み重ねた技術・功績、人と人が連携する重要性などを丁寧に説明し、ようやく理解を得られたという。

【現場・経験を蓄積する重要性】
休暇や残業規制が叫ばれる昨今に対し、嶋田理事長は「職人こそ今以上に現場に出て、磨き上げた自身の能力を社内外に提示し、可能性を広げるべきだ」と明言する。価格交渉の土俵に立つ資格を有するのは、確かな技術を基に堅実な結果を残した技術者のみ。全ての組合員がこの領域に辿り着けるよう、若手の確保と育成に心血力を注いでいる。現在は、県内の工業高校を対象にした出前授業も積極的に実施しており、「まずは左官という仕事の存在を知ってもらうこと」を重視。姫路城の塗り壁という具体的な事例に出会えたことで表情が一変し、興味を持った生徒が組合員企業に入社するなど、顕著な成果を上げられるケースも増えているようだ。

【職人への敬意を示すべき】
左官は日本建築において欠かせない伝統技術。構造物の耐久性・意匠性を左右する工程を担い、見た目の仕上げだけに留まらない貴重な価値を持つ。嶋田理事長自身も、10代で施工管理として建設業界に入職したが、工程の指示や管理だけでは満たされず、「自分の手でつくりたい」との思いから、左官の道に進んだ経緯を持つ。技術の修得には5〜10年ほどを要し、一人前になるまでの道のりは長い。しかし、「このような特殊技能には、見合った対価が支払われるべき」と改めて主張する。自身が若手の頃は「技術は盗んで覚えること」が常識だった時代。家業であっても甘えは許されなかったが、今後も持続的に左官技術を継承し続けるには「無駄のない効率的な指導も必要になる」と実感を込めて話す。後進に繋がる道を更に拓くには、職人の全社員化や社会保険加入を義務化するなど課題も多い。若い世代が心地良く働くには、「煙たがられる可能性は高いが、元請けにも言うべき主張は伝えなければならない」と微笑みを見せながらも確固たる信念を示す。「もっと職人への敬意を示してほしい」。職人を生業としてきた嶋田理事長だからこそ示せる矜持は、専門工事業者の普遍的な願いであり、今後の業界全体の躍進の鍵と筆者は考えている。
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この記事を書いた人
クラフトバンク総研 記者 川村 智子
新卒で入社した建設コンサルタントで、農地における経済効果の算定やBCP策定などに従事。
建設業の動向や他社の取り組みなどに興味を持ち、建通新聞社では都庁と23区を担当する。
在籍時は、各行政の特徴や課題に関する情報発信に携わる。2024年よりクラフトバンクに参画。
記者として企画立案や取材執筆などを手掛けている。









