クラフトバンク総研

建設業界のことが楽しくわかる書籍「建設ビジネス」

更新日:2026/1/14

2025年5月11日(日)15:00~15:55

ゲスト:クラフトバンク総研 髙木健次 所長
独自の建設業界のデータベースを活用し、業界の今と未来を分析する「クラフトバンク総研」。建設会社の経営者やその支援に従事されている専門家の方々向けに、経営に役立つ情報、データ、事例を分かりやすく発信することで、建設業界全体の発展への貢献を目指しています。
番組では、1月に発売された、所長・髙木健次さんの著書「建設ビジネス」について深掘り。建設業に関わる方、そしてこれから勉強してみたい方に是非読んでいただきたい1冊です。

再生ファンドから建設業界へ

クラフトバンク田久保(以下、田久保)まず簡単に、髙木さんの自己紹介をお願いできますか。

髙木健次さん(以下、髙木):私は現在、クラフトバンク総研の所長を務めています。元々は再生ファンドのファンドマネージャーとして12年間勤務しておりまして、建設業や製造業などの債権を扱っていました。特に東日本大震災の被害を受けた企業の再生などに従事していましたが、2019年にクラフトバンクの前身である内装工事会社に入社し、そこからクラフトバンク総研を立ち上げました。

田久保:現在はどのような活動がメインなのですか。

髙木:今はテレビの報道番組の監修やメディアへの寄稿、あとは業界団体や商工会議所、安全大会などでの講演が主な活動になっています。建設業界全般の調査・研究を行っているという形ですね。

憶測ではなく「データ」で語る建設業界

田久保:「建設業界の研究」というのは、具体的にどのようなことをされているのでしょうか。

髙木:建設業界は、これまで少し憶測で語られてきた部分が多いと感じています。そこで私たちは、国土交通省や厚生労働省などの公的なデータを徹底的に分析しています。それも全国単位だけでなく、47都道府県、960自治体という非常に細かい単位で分析を行っています。

田久保:それほど細かく分析することで、何が見えてくるのですか。

髙木:なぜ人手不足が起こるのか、今何が必要なのかといったことが、データによって非常に分かりやすく見えてきます。その分析結果を世の中に発信していくのが私たちの役割です。

異例のスピード重版、著書『建設ビジネス』

田久保:最近、本も出版されたそうですね。その本についても教えてください。

髙木:2025年1月に『建設ビジネス』という本を発売しました。これまでの建設業界の本は専門的なものが多く、ゼネコン関係者などのプロ向けに書かれたものが大半でした。しかしこの本は、初めて建設業界に関わる人たちが、前提知識がなくても業界の全体像を理解できるようにという狙いで作っています。

田久保:反響はいかがですか。

髙木:ありがたいことに非常に売れていまして、発売から1ヶ月半足らずで重版が決まりました。専門書としては異例のスピードだと思います。業界本の中でも、かなり速いペースで読者に届いている実感があります。

「プロ」にも読まれる入門書の価値

田久保:どのような層の方々が読んでいるのでしょうか。

髙木:元々は、建設業界未経験でクラフトバンクに入社した社員向けの研修内容を拡張して書いたものですから、就職活動中の大学生などを想定していました。実際に多くの大学の就職センターにも置かれています。

田久保:業界の方々の反応はどうですか。

髙木:実は、建設会社の社長さんやゼネコンにお勤めの方からも大きな反響をいただいています。一般向けに書いたつもりが、プロの方々にも広く読まれているというのは嬉しい驚きでした。

「建設業界の池上彰」を目指して

田久保:本のタイトルが『建設ビジネス』となっていますが、これは髙木さんが決められたのですか。

髙木:これは出版社であるクロス・メディアさんからの提案です。この出版社は「ビジネス」シリーズとして、魚、肉、野菜、お米、ホテルなど、様々な業界を紹介する本を出版されています。そのラインナップの一つとして、建設業界も扱いたいというお話をいただいたのがきっかけです。

田久保:髙木さんに白羽の矢が立った理由は、ご自身ではどうお考えですか。

髙木:私は大学の先生のような純粋な研究者ではありませんが、テレビ番組の解説やヤフーニュースでの寄稿など、一般の方に向けてこの業界のことを分かりやすく発信する活動を続けてきました。出版社の方からは、一般の方に幅広く発信するという意味で適任だと言っていただきました。自分でも「建設業界版の池上彰さん」を目指して取り組んでいます。

全45項目、電車の移動時間で読める構成

田久保:本の内容についても伺いたいのですが、全280ページとかなりボリュームがありますね。構成で工夫した点はありますか。

髙木:出版社のシリーズのフォーマットに合わせ、全9章、約45のパートで構成しています。一つのパートを短くしており、電車の一駅か二駅の移動時間で読み切れるようになっています。

田久保:忙しい人でも少しずつ読み進められそうですね。

髙木:内容としては、建設業界の全体像を網羅しつつ、歴史と未来についても必ず触れるようにしました。初めて業界に触れる人が置いてけぼりにならないよう、構成にはこだわりました。

4つのカテゴリー:**

田久保:全9章のうち、特に力を入れた章はどこですか。

髙木:第1章から第5章までは、建設業界を大きく4つに分けて解説しています。土木、非住宅建築、住宅建築、そして解体・改修です。建設業と一口に言っても、これらは全く別物なんですよ。

田久保:具体的にどう違うのでしょうか。

髙木:土木は公共工事が中心ですし、住宅はお客様が一般の方です。また、マンション修繕や実家の解体といった改修・解体の分野についても、それぞれのプロに取材して、一般の方にも役立つコツを盛り込みました。土木の章では能登の復興や災害復旧の話にも触れています。

人手不足の真因は「30代・40代の不在」

田久保:第6章では、今深刻な「人手不足」について書かれていますね。

髙木:はい。よく「若者が建設業界に入ってこない」と言われますが、実は新卒で入職する若者の数は、少子化の中でも10年前より増えているんです。特に女子大の建築学科などは人気が高まっており、女性の進出も目立ちます。

田久保:それでは、なぜ人手不足がこれほど叫ばれているのですか。

髙木:実は、30代から40代の中堅層が圧倒的に足りないんです。リーマンショックなどの氷河期に業界を離れたり、転職したりした世代がごっそり抜けている。この「真ん中の層」がいないことこそが、人手不足の本質なのです。

職人の採用を阻む、1949年の法規制

田久保:採用に関しても、建設業界特有の難しい問題があるそうですね。

髙木:ここが非常に重要なのですが、建設職人に関しては、法律によって有料職業紹介や人材派遣が厳しく制限されています。これは1949年にできた古い法制度が今も残っているためです。

田久保:他業界のようにエージェントを使って採用することができないのですね。

髙木:その通りです。他の業界へ転職することは自由なのに、職人として別の会社が採用しようとすると、お金を払って紹介を受けることができない。これでは人が抜ける一方で、補充が非常に難しい構造になっています。この法的な壁について言及しているメディアはほとんどありません。

賃金の現状と「日給制」の課題

田久保:給料についても、第7章で詳しく触れられていますね。

髙木:建設業界の給料についても誤解が多い部分です。現在、中堅層が不足しているため、40代を中心とした賃金はかなり上がっています。会社側も必死に引き止めようとしている状況です。

田久保:一方で、まだ改善すべき点もあるのでしょうか。

髙木:「日給制」の問題があります。現在も職人の38%が日給制で働いています。雨が降って現場が止まれば給料が減ってしまうという不安定な働き方です。この不安定さが、他業界への流出を招いている一因でもあります。

30社以上の企業への徹底取材

田久保:この本の特徴として、非常に多くの企業に取材されていますよね。

髙木:大手ゼネコンの戸田建設さんや、建材大手のLIXILさんのような大企業だけでなく、地元の工務店や大工さん、解体業者の社長さんなど、30社以上に取材しました。

田久保:現場の生の声が反映されているわけですね。

髙木:はい。電気工事士がどのような資格をどうやって取得するのか、消防設備点検の会社にどのような人たちが転職してきているのかといった、普段は表に出ない詳細なキャリアパスについても深掘りしました。

異業種から建設業界への転職者たち

田久保:取材の中で意外な発見はありましたか。

髙木:電気工事の会社の社長さんが実は教育学部出身だったり、消防点検の現場に警備業界からの転職者が増えていたりすることです。警備は夜勤が多いですが、消防点検は基本的に日中なので、規則正しい生活を求めて転職してくる。また、住宅営業では元ブライダルプランナーの方が非常に活躍しているという話も聞きました。

田久保:ブライダルプランナーですか。なぜでしょうか。

髙木:「一生に一度の大きな買い物」をサポートするという意味で、スキルが共通しているからだそうです。コロナ禍で打撃を受けたサービス業の方々が、安定した正社員雇用を求めて建設業界に飛び込み、活躍しているケースも多いですね。

「家の仕事」をしない大工が増えている

田久保:大工さんの現状についても、興味深いお話がありますね。

髙木:ある大工工務店の社長さんに伺ったのですが、若手の大工を月給制で安定して雇うために、あえて「家の仕事」をやめ、公共施設の内装工事などにシフトしているそうです。

田久保:なぜ「家の仕事」をやめてしまうのですか。

髙木:住宅建築は発注量の波が激しいからです。月給制で社員を守るためには、発注量が安定している公共工事などを中心にする必要がある。大工さんは減っていると言われますが、その中でもさらに「個人の家を建てる大工さん」が減っているという構造的な問題があります。

日本に29もの工種がある歴史的背景

田久保:第8章の歴史についても伺いたいのですが、建設業にはなぜ29もの工種があるのでしょうか。

髙木:これは戦後の復興期にまで遡ります。日本は戦後、多くの都市が空襲で焼かれ、急速な復興が必要でした。そのため、多能工(いろいろなことができる職人)を育てる時間がなく、単能工(一つのことに特化した職人)を大量に、短期間で育成する必要があったのです。

田久保:その教育システムが今も残っているということですね。

髙木:はい。細分化して教育期間を短くした名残が、今の複雑な行政許可や29の工種に繋がっています。今の時代に合わなくなっている部分もありますが、歴史的な必然性があって今の形になっています。

「多重下請け」が生まれた意外な理由

田久保:建設業界の課題としてよく挙げられる「多重下請け構造」についてはどう分析されていますか。

髙木:多重下請けは昔からあったと思われがちですが、実はバブル崩壊後の消費税導入が大きなきっかけになっています。

田久保:消費税が関係しているのですか。

髙木:直接雇用して社会保険料などの固定費を抱えるよりも、職人を独立させて外注化することでコストを抑えようとする動きが、バブル崩壊後の景気悪化時に加速しました。企業の内部留保は増えましたが、その分、労働者への還元が不十分になったという側面は否定できません。

建設業界に向けられた過去の「バッシング」

田久保:建設業界のイメージについても書かれていますね。なぜ「怖い」といったネガティブな印象が根強いのでしょうか。

髙木:1970年代のロッキード事件や、1990年代のゼネコン汚職事件の際に、メディアによる大規模なバッシングがありました。特に90年代は、ゼネコンがテレビのスポンサーから降りた時期と重なり、メディアにとって叩きやすい対象になってしまったという背景があります。

田久保:そうした過去の報道の影響が今も続いていると。

髙木:はい。今の親世代はそのネガティブな報道をリアルタイムで見ています。若者が業界に興味を持っても、親が反対するというケースが多いのはそのためです。しかし、災害復旧などで一番に駆けつけるのは建設業界です。もっとその役割が正当に評価されるべきだと感じています。

本をきっかけに動き出す、業界の担い手たち

田久保:本を出版してから、読者からどのような感想が届いていますか。

髙木:実家の建設会社を継ぐことになった方から、「何を勉強すればいいか分からず心が折れかけていたけれど、この本を読んで勇気が出た」という連絡をいただきました。

田久保:それは嬉しいですね。

髙木:他にも、建設会社の社長さんと結婚して経理を手伝うことになった奥様や、工業高校の先生方からも、「業界の全体像がようやく分かった」という声をいただいています。大企業から中小企業まで、多くの人たちの協力で書き上げた本なので、こうして広く届いているのは本当にありがたいことです。

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