クラフトバンク総研

広島新サッカースタジアムの躯体工事を手掛けた福井建設株式会社

更新日:2026/1/10

2024年11月10日(日)15:00~15:55

ゲスト:福井建設株式会社 代表取締役・福井正人さん

中国地方で躯体工事を請け負う福井建設株式会社。創業から96年、今年オープンしたサッカースタジアムを手掛けるなど、広島を中心に長きにわたり活躍されています。若くして社長に就いた三代目・福井正人さんの波乱万丈なお仕事ぶりや、人材を育てる「広島建設アカデミー」のお話、そして誇り高い仕事であった「島根県芸術文化センター グラントワ」についてなど、たっぷりと聞かせてきただきました。

創業96年、躯体工事のスペシャリスト集団

クラフトバンク中辻(以下、中辻)早速ですが、まず福井建設さんがどのような会社なのか、事業内容について教えていただけますか?

福井正人さん(以下、福井):弊社は、私の祖父が昭和3年に創業したとび土工の会社が始まりです。今年で96年目を迎えます。現在は「躯体工事」、つまり建物の骨組みを作る仕事ですね。型枠工事、鉄筋工事、とび土工工事、そしてコンクリート工事までを、自社の社員である職人で行っている会社です。専門工事業者の中では、これら一式を自社で賄えるというのは少し珍しい体制かもしれません。

クラフトバンク田久保(以下、田久保)多くの職人さんが社員として所属されているのですね。現在、何名くらいの方がいらっしゃるのですか?

福井:今は全体で70名弱です。そのうち事務系のスタッフが7名ほどで、それ以外はすべて現場担当の人間、つまり職人や施工管理を行う部隊になります。

田久保:躯体工事を一式請け負えるというのは、元請けさんにとってもメリットが大きそうですね。

福井:そうですね。通常であれば、型枠は型枠屋さん、鉄筋は鉄筋屋さん、と別々に発注しなければなりませんが、弊社であれば福井建設と話をすれば躯体工事の調整がすべて完結します。そういった意味では、元請けのゼネコンさんにとって非常に使い勝手の良い会社ではないかと自負しております。

オイルショックの苦境を「海外進出」で打開

田久保:創業から96年と非常に長い歴史をお持ちですが、どのようにして事業を拡大されてきたのでしょうか?

福井:大きく動いたのは私の父の代ですね。父が社長の時代にオイルショックがありまして、国内の仕事が激減してしまったんです。当時、父は多くの若い従業員を採用したばかりで、彼らを辞めさせたくない、路頭に迷わせたくないという一心で、半ば博打のような形で海外工事を始めました。

中辻:海外ですか。それはまた思い切った決断ですね。

福井:ええ。日本の大手ゼネコンさんが海外で工事をする際に、うちの職人を連れて直接、中近東やアフリカ、東南アジアの現場へ行っていました。当時は社員のほぼ全員が海外での業務経験者という状況でしたね。私が会社を継いだ1995年頃には、社員が150人、さらに直雇用の職人が100人で、合計250人くらいの規模になっていました。

アフリカでの父の急逝と、突然の社長就任

田久保:福井社長ご自身は、どのような経緯で会社を継がれることになったのですか?

福井:実は、父が海外出張先だったアフリカのジブチ共和国で交通事故に遭い、急逝したことがきっかけなんです。それが私が24歳の時でした。当時私は東京で現場の職人をしながら、将来は全く別のことをやろうと考えていたので、会社を継ぐ気は一切ありませんでした。

中辻:24歳という若さで、あまりに突然のことだったのですね。

福井:そうなんです。もし父が病気で倒れたという状況であれば、会社側も事業承継の準備ができたでしょうけど、交通事故ですからね。急遽広島に呼び戻される形になりました。正直なところ、父が築き上げてきた会社をこのまま潰すわけにはいかない、その一心だけで継ぐことを決意しました。右も左もわからない状態でのスタートでした。

32歳で背負った40億円の個人保証

田久保:社長に就任されてから、特に大変だったご経験はありますか?

福井:それはもう、山ほどありますよ(笑)。特に父の代から続いていた海外事業ですが、父が亡くなった後も惰性で続けていた部分がありまして、その負の遺産が相当な額に膨らんでしまったんです。会社を継いで7年が経った32歳の時、民事再生を申し立てることになりました。

田久保:民事再生ですか。それは壮絶ですね。

福井:会社の借金自体は法的に整理されましたが、私が会社の連帯保証人になっていましたので、結局すべての債務を私が個人で引き受けることになりました。32歳にして40億円の個人保証を負ったんです。

中辻:40億円……想像を絶する金額です。

福井:その返済がすべて完了したのは、ほんの一昨年くらいのことですね。ようやく肩の荷が下りたという感じです。本当に大変な道のりでしたが、社員や家族、周囲の方々に支えられてなんとか乗り越えることができました。

30年前に社内LANを構築、早すぎたデジタル化

田久保:ここからは少し視点を変えて、建設業界のDXやデジタル化についてお伺いします。福井建設さんでは、これまでどのような取り組みをされてきましたか?

福井:実は私が会社を継いだ1995年から1、2年後には、当時あった広島、山口、岡山の3拠点を全部社内LANで繋いでいました。専門工事業界でそんなことをやっている会社は、私の知る限り他には1社か2社しかありませんでしたね。

中辻:Windows95が出た直後くらいですよね。非常に先進的な取り組みだと思います。

福井:当時から工事量が相当ありましたので、日々の収支をリアルタイムで把握する必要があったんです。どんぶり勘定ではなく、しっかりと数字で管理したかった。将来的には、職人一人ひとりにポケットコンピューターを持たせて、現場で直接入力してもらおう、とまで考えていました。今のスマホのようなイメージですね。

田久保:その構想は実現されたのですか?

福井:いえ、残念ながらバブル崩壊からの後遺症の対応や、先ほどお話しした民事再生などの対応に追われ、そこから20年くらいはデジタル化への投資が止まってしまいました。早すぎたというか、時代がまだ追いついていなかった部分もあったかもしれません。

DXはあくまで「道具」、重要なのは使いこなす「人」

田久保:現在、改めてDXが叫ばれていますが、福井社長はDXという言葉自体をどのように捉えていらっしゃいますか?

福井:我々の業界の人間は、たぶん「デラックス」だと思ってる人が大半ですよ(笑)。というのは冗談ですが、DXは言い方が悪いですけど、結局は「ツール」じゃないですか。道具なんです。

田久保:あくまで手段であると。

福井:そうです。その道具を使う人間のスキルを上げる術が、今の日本にはないと感じています。特に我々のような職人の技術技能は、個々の会社に任せっきりになっているのが現状です。どんなに良い道具、良いデジタルツールを導入しても、それを使いこなす人間が育っていなければ宝の持ち腐れになってしまいます。元請けさんも含めて、業界全体で人材育成に取り組まないと変わらないと思います。

ドイツのマイスター制度に学ぶ「職人の誇り」

福井:人材育成という点では、先日、専門工事業団体連合会でドイツのフランクフルトにあるマイスターを育てる施設へ視察に行ってきました。先進国ではどこも職人が足りない状況ではありますが、ドイツはマイスター制度がしっかりと根付いていて、職人が社会的に尊敬され、優遇される立場にあります。

田久保:日本とは少し状況が違うようですね。

福井:そこで指導する方がおっしゃっていた言葉が非常に印象的でした。「IT系の仕事は瞬間しかトップでいられない。技術の進歩が速すぎて、常に勉強し続けないといけないし、すぐに陳腐化してしまう。でも我々の仕事、つまり職人の技術は、一度身につければずっとトップでいられるんだ」と。自信を持って語っていたんです。これには目から鱗が落ちる思いでした。

中辻:「一度身につければ一生モノ」というのは、確かに職人の世界の強みですね。

福井:ドイツやフランス、イギリス、アメリカには、職人を育てるための教育システムがちゃんと国としてあるんです。でも日本は、本人の資質や「見て盗め」という古い慣習に頼っている部分が大きい。この技術技能を継承していく仕組みを、国や業界として確立すべきだと強く感じました。

専門工事業と元請けをつなぐ架け橋として

田久保:福井社長はCCA(地域建設業新未来研究会)など、業界団体での活動も積極的にされていますが、どのような目的があるのでしょうか?

福井:明確に2つ理由があります。一つは、地域のトップクラスのゼネコンさんがどういうことを考えているか勉強するためです。やはり元請けさんの考えを理解しないと、我々専門工事業も適切な提案や対応ができません。

もう一つは、私たち専門工事業が今何を考えているのかを伝えるためです。「職人のレベルではこんなことを考えている」「現場ではこういう問題が起きている」「こうしてほしい」という生の声を、元請けのトップの方々に直接伝える。相互理解を深めることで、末端の職人たちの環境も変わるだろう、という思いがあります。

広島建設アカデミー、初の「入学者ゼロ」の衝撃

田久保:福井社長が運営されている広島建設アカデミーについても教えてください。

福井:広島建設アカデミーは、元々はうちの企業内訓練校として昭和45年に設立したものです。10年後からは広島県の他の会社も参画して、広域的な職業訓練法人として運営してきました。長年、高卒の若者を受け入れて、技術を教え、一人前の職人に育て上げる役割を担ってきました。

田久保:今年、そのアカデミーで衝撃的なことがあったとお聞きしました。

福井:はい。今年の4月、高卒の新入生が一人も入ってこなかったんです。これはアカデミー始まって以来、初めての出来事です。

中辻:一人も、ですか。それは深刻ですね。

製造業との人材獲得競争、待ったなしの危機感

福井:広島県全体でも、建設業への入職者は激減しています。そもそも子供の出生数が減っているので、18年後には高校3年生が70万人を切る時代が来ます。その限られたパイの中で、建設業に来てくれるのは何パーセントか。

田久保:非常に厳しい数字になりそうですね。

福井:特に我々がいる中国地方、広島や岡山は瀬戸内工業地帯があり、自動車メーカーや造船などの工場がたくさんあります。若手の取り合いになっているんです。「ものづくり」に興味がある子でも、建設業ではなく、空調が効いていて休みもしっかりある工場のほうに行ってしまう。これは全国どこでも起こりうる話だと思います。

「入ってほしい」から「入りたい」業界へ

田久保:そうした中で、建設業に人を呼び込むためには何が必要だとお考えですか?

福井:2024年4月から働き方改革関連法が適用されましたが、これも業界の人間が本当に共通の危機感を持たないと変わらないと思います。今の若い子たちは土日休みが当たり前です。その子たちにまず業界に入ってもらわないといけない。

我々は、その子たちが満足して働けるくらいの給料、休みを他産業並みにやる。そのうえで、他産業以上の好条件を設けないと若い子は振り向いてくれません。

中辻:条件面での改善は必須ということですね。

福井:そうです。「入ってほしい業界」と言っているうちはダメなんです。「入りたい業界」にしなければいけない。これに尽きますね。うちの会社だけ良ければいい、という話ではありません。業界の人間すべてがその危機感を持って、本気で環境を変えていかないと、この業界に未来はないと思っています。

建設業の魅力は「地図と心に残る」こと

中辻:厳しい現状もある中で、それでも福井さんが思う「建設業の魅力」とはどんなところでしょうか?

福井:月並みかもしれませんが、街の形をつくり、人の笑顔をつくれる商売だということです。私たちが作った建物が地図に載り、そこで人々が生活し、待ち合わせをし、笑顔が生まれる。作った人間の名前は建物には残りませんが、「あれは俺が作ったんだ」という小さな誇りが、自分の胸に深く刻まれていくんです。

中辻:「小さな誇り」、素敵な言葉ですね。

福井:自動車メーカーで働く友人は「自分が作った車が走っているのを見ると嬉しい」と言いますが、車はいずれ廃車になります。でも建物は、何十年とそこに残り続ける。自分の子供や孫に「あれはお父さんが作ったんだぞ」と言える。これは我々の業界のすごく良いところ、最大の魅力だと思います。

日本一の「打ちっぱなしコンクリート」への自負

中辻:これまでの数あるお仕事の中で、特に印象に残っている現場はありますか?

福井:島根県の益田市にある「島根県芸術文化センター グラントワ」ですね。ここの大ホールのコンクリート打ちっぱなしは、僕が日本一だと思っています。

田久保:写真で見てもすごい迫力ですね。これはどうやって作るんですか?

福井:通常のコンクリート打ちっぱなしだと、「Pコン」という丸い穴の跡が残るんですが、グラントワにはそれが一切ないんです。杉板の木目を転写した、完全なコンクリートの壁面になっています。

中辻:穴がないんですか?どうやって型枠を固定しているのでしょう。

福井:特殊な金物を使って、外側から締め付ける工法をとりました。しかも壁が折れ曲がっていたり、複雑な形状をしているので、単管パイプを三次元的に組んで、一つとして同じピースはないというパズルのような作業でした。構造体なので、屋根まで一気に作り上げないと強度が出ない。失敗が許されない緊張感の中で、職人たちが知恵と技術を振り絞って完成させました。コンクリートに携わる仕事の方には、ぜひ一度見てもらいたいくらいの自信作です。

職人の技術という「国力」を守るために

中辻:最後に、今後の展望や、福井さんが目指す未来について教えてください。

福井:日本の国力の根幹は、やはり「ものづくり」の強さ、製造業の強さだと思っています。職人が汗水を流し、しんどい思いをして身につけた技術、これはAIやロボットが進化しても無くならない価値あるものです。

その価値をもう一度見つめ直し、若い子たちが「かっこいいな」「この仕事がしたいな」と思えるような環境を作りたい。先ほどのドイツのマイスターのように、職人が誇りを持って働ける社会にしていきたいですね。それが私の使命だと思っています。

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アーカイブ配信:https://audee.jp/voice/show/93145

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