土木・建設技術で映像制作の裏側を支える今井建設株式会社
更新日:2026/1/14
▼目次
- 1 創業64年、映画セットも手掛ける建設会社
- 2 時代劇の城から現代劇の廃墟まで
- 3 廃線に「本物の電車」をゼロから造る
- 4 撮影中のセットチェンジと土砂崩れの再現
- 5 きっかけはNHK大河ドラマの「流された橋」
- 6 フィルムコミッションとの出会いとソフト面での支え
- 7 全国から声がかかる「撮影現場の便利屋」
- 8 話題作を支える美術制作の実績
- 9 是枝監督作品『怪物』と諏訪ロケの盛り上がり
- 10 聖地巡礼と3,000人が応募したロケ地ツアー
- 11 地域貢献と「壊さないセット」の再活用
- 12 売上の4割を占める撮影関連事業
- 13 社員全員が建設と撮影を兼務する強み
- 14 重機用カバー「今井シート」の開発
- 15 現場の切実な悩みから生まれた製品
- 16 建設DX:**
- 17 山間部ならではのICT施工の工夫
- 18 電子小黒板による写真管理の効率化
- 19 LINE WORKSによる勤怠・日報のデジタル化
- 20 社員の主体性を尊重するトップの姿勢
- 21 チームで作り上げる喜びとDXの本質
- 22 建設と映画のノウハウを融合させた未来
- 23 日常のあらゆる風景を仕事に活かす
2025年8月10日(日)15:00~15:55
今井建設株式会社 代表・今井正和さん
昭和36年創業、長野県諏訪郡で公共事業土木工事、民間工事などの建設業を営む今井建設株式会社。同社の特徴は何と言っても、土木・建設の技術を活かした、映像作品の現場サポート!映画やドラマ、CM、MV等の撮影現場で撮影セットの建造やロケ地の設営等を行い、日本の映像作品の裏側を支えているのです。諏訪エリアで撮影された、第76回カンヌ国際映画祭の脚本賞/クィア・パルム賞受賞映画「怪物」をはじめ、「キングダム」「ゴールデンカムイ」「ガンニバル」・・・など多数の人気作品に携わり、全国の撮影現場を飛び回る今井社長。日本のカルチャーを盛り上げる、建設業界の意外な面白さをたっぷりと聞かせていただきました。
創業64年、映画セットも手掛ける建設会社
クラフトバンク金村(以下、金村):まず、今井建設さんではどのようなお仕事をされているのか教えていただけますか。
今井正和さん(以下、今井):今井建設株式会社は昭和36年に創業し、今年で64年目を迎える会社です。公共事業の土木工事や民間工事といった建設業を営んでいますが、数年前から映画やドラマ、コマーシャルやミュージックビデオの撮影現場でのセット建造なども行っています。
金村:建設業を営んでいる会社だからこその目線や技術で、さまざまな分野に挑戦されているのですね。
今井:はい。他にも、重機用のカバーの開発や販売も行っています。建設業としての技術をベースに、多角的な視点で挑戦し続けている会社です。
時代劇の城から現代劇の廃墟まで
金村:映画やドラマの撮影セットを作られているとのことですが、具体的にどのようなものを造られているのでしょうか。
今井:皆さんが映画のスクリーンで目にするようなものですね。時代劇で言えば、お城の砦や、お城そのものを造ることもあります。
金村:現代劇ではいかがですか。
今井:現代劇では、廃墟のバラックの街並みなど、依頼があったものに合わせてさまざまに対応しています。撮影現場の雰囲気をゼロから作り上げる仕事です。
廃線に「本物の電車」をゼロから造る
金村:お写真を見せていただきましたが、電車まで造られているのですね。これはもともとあったものではなく、ゼロから造られたのですか。
今井:そうです。その時は廃線路を使いたいという要望がありました。本来なら本物の電車を持ってこれれば一番良かったのですが、進入路もなく不可能な場所でした。
金村:そこからどのようにして造り上げたのでしょうか。
今井:山を切り拓いて搬入路の動線を確保しました。建設の仕事をしているので、そのあたりは得意分野です。搬入路を作ってから部材や資材を運び、現地で組み立てて製作しました。
撮影中のセットチェンジと土砂崩れの再現
金村:綺麗な新品同様の電車の写真がある一方で、草が生えて朽ち果て、土砂に埋まって倒れている写真もあります。これも演出なのですか。
今井:物語の中で、最初は廃線路に電車があり、そこが子供たちの秘密基地という設定でした。最終的に土砂崩れで電車が埋まってしまうシーンがあったため、撮影中にセットチェンジを行いました。
金村:土砂崩れを再現するのは大変な作業ですよね。
今井:本物の土砂を大量に運ぶのは大変なので、下地に足場を組んで、その上だけに土砂を運んで土砂崩れの様子を作りました。クレーンで吊り上げて倒すなど、建設現場の重機をそのまま活用しています。
きっかけはNHK大河ドラマの「流された橋」
金村:もともと創業時からこうした映像関係のお仕事をされていたのでしょうか。
今井:いえ、私が三代目になりますが、私の代から撮影現場の仕事を受けるようになりました。
金村:どのようなきっかけでスタートしたのですか。
今井:会社の社屋の裏に一級河川が流れているのですが、NHKの大河ドラマで「流された橋を造りたい」という依頼が直接電話できたのが最初です。撮影業界のことは右も左も分からない状態でしたが、とりあえず受けてみようと挑戦しました。
フィルムコミッションとの出会いとソフト面での支え
金村:最初のお仕事をやり遂げた後、どのように事業として広がっていったのでしょうか。
今井:その現場で諏訪圏フィルムコミッションの方と出会いました。数年間は諏訪地域の撮影現場で、セットの建造といったハード面だけでなく、トイレや食事用のベーステントの用意といったソフト面でも協力するようになりました。
金村:現場の細かいニーズをすべてケアされているのですね。
今井:俳優さんのメイク場所や着替えのスペースとしてコンテナやテントを運び、電源や配線を用意して、目に見えない部分でも協力させていただいています。その中でスタッフの方々と知り合い、全国に呼ばれるようになりました。
全国から声がかかる「撮影現場の便利屋」
金村:今ではSNSを拝見すると、話題作のほとんどに今井建設さんが関わっているように見えます。
今井:呼ばれればどこへでも行くスタイルでやっています。大作と呼ばれる作品だけでなく、小さな作品でも声がかかれば伺います。
金村:業界内では「今井建設に言えばなんとかなる」という評判が広がっているのですね。
今井:業界の中では「便利屋」のような位置付けかもしれませんが、ずっと呼んでいただけるのは本当に光栄なことだと思っています。
話題作を支える美術制作の実績
金村:具体的にどのような作品に関わってこられたのですか。公開されているもので教えてください。
今井:『キングダム』や『ゴールデンカムイ』、それから是枝裕和監督の『怪物』などですね。
金村:素晴らしい実績ですね。日本アカデミー賞の美術賞に関連するような作品にも多く携わっていらっしゃいます。
今井:おととしは『怪物』、去年は『ゴールデンカムイ』の美術でお声がけいただきました。話題作の舞台裏を支えさせていただいています。
是枝監督作品『怪物』と諏訪ロケの盛り上がり
金村:是枝監督の『怪物』は、この諏訪地域で撮影されたシーンも多いと伺いました。
今井:『怪物』は、ほとんどオール諏訪ロケと言ってもいいくらいの作品です。地元の景色がふんだんに使われています。
金村:ファンの方も多いでしょうから、地域としての盛り上がりも凄かったのではないですか。
今井:そうですね。フィルムコミッションでロケ地マップを作成していて、「このシーンはここで撮影した」というのが分かるようになっています。多くの方が諏訪に足を運んでくれています。
聖地巡礼と3,000人が応募したロケ地ツアー
金村:ロケ地を観光として楽しむ、いわゆる「聖地巡礼」のような取り組みもされているのですか。
今井:地元貢献という意味でロケ地ツアーを計画しています。弊社に問い合わせが殺到したので、フィルムコミッションと協力して公式に募集を募りました。
金村:どれくらいの応募があったのでしょうか。
今井:3,000人ほどの応募がありました。その中から200人ほどを選んで、数回に分けてツアーを開催しました。全国から足を運んでいただき、諏訪の景色を見て美味しいものを食べて帰ってもらう。諏訪を知るきっかけになればと思っています。
地域貢献と「壊さないセット」の再活用
金村:撮影が終わった後のセットは、通常どうされるのですか。
今井:すべて解体せずに、一部を街の図書館などに再建することもあります。
金村:一般の方が見られる場所に再現するのは素敵な試みですね。
今井:「あの時のあのシーンだ」と思い出してもらい、また映画を好きになってもらうきっかけを作れればと思っています。地域の方々にも喜んでいただける活動を続けていきたいです。
売上の4割を占める撮影関連事業
金村:今では、この撮影現場のお仕事は会社の中でどれくらいの割合を占めているのですか。
今井:売上の約4割が撮影現場、6割が本来の建設業という比率になっています。
金村:建設業と並ぶ大きな柱になっているのですね。もともとの土木事業との相乗効果もあるのでしょうか。
今井:そうですね。建設現場で使っている重機や技術をそのまま撮影現場に持ち込めるのが強みです。他にはないユニークな事業形態になっていると思います。
社員全員が建設と撮影を兼務する強み
金村:撮影現場を担当する専門のチームがいらっしゃるのですか。
今井:いえ、社員全員が兼務しています。打ち合わせや計画の段階までは私が窓口となりますが、実際に造るとなれば社員みんなで現場に向かいます。
金村:今日は道路の補修、明日は映画のセット制作といった会話が日常的に交わされているのですね。
今井:一社では対応できない規模の時は、地元の建設会社さんにも協力してもらっています。建設業の仲間と一緒に、映画の世界を作り上げていくのは面白いですね。
重機用カバー「今井シート」の開発
金村:建設現場の悩みから生まれたという、オリジナル製品についても教えてください。
今井:「今井シート」という商品名で販売している、小型油圧ショベル用のカバーです。小型の重機は屋根しかないものが多く、運転席が囲われていないんです。
金村:雨の日などは大変そうですね。
今井:朝、仕事に行くとシートが濡れていたり汚れていたりするのが嫌だったんです。これまではブルーシートなどで代用していましたが、メーカーにオプションで作ってほしいと3年ほど言い続けても作ってもらえませんでした。
金村:それなら自分たちで作ってしまおうと。
今井:はい。1年ほどかけて長野県の支援団体や県の協力も得ながら製品化しました。撥水・防水加工で雨風を防ぎ、座席の後ろに収納できるのが特徴です。
現場の切実な悩みから生まれた製品
金村:「今井シート」には、どのようなこだわりが詰まっているのですか。
今井:一番のポイントは、外した時に座席の後ろに収納できる点です。これまでは外したシートの置き場所に困っていましたが、それを解決しました。特許も申請中です。
金村:建設のプロが、現場で実際に困っていることを解決するために作ったのですね。
今井:UVカット加工も施しているので、直射日光による劣化も防げます。とにかくクレームがないように、石橋を叩いて1年かけて開発しました。
建設DX:**
金村:建設業界でもデジタル化やDXが進んでいますが、今井建設での取り組みを教えてください。
今井:数年前に「自動追尾型トータルステーション」という機械を導入しました。
金村:どのようなメリットがあるのでしょうか。
今井:これまでは測量業務などを2人1組で行っていましたが、この機械を使うことで1人でも測量ができるようになります。
金村:人手不足の中で、1人で作業ができるのは大きな効率化ですね。
今井:はい。GPSを活用した「i-Construction」のデータに基づいた現場づくりにも取り組んでいます。
山間部ならではのICT施工の工夫
金村:諏訪地域は山も多いですが、デジタルの活用で苦労する点はありますか。
今井:山間部は上空に木が茂っていて障害物が多く、GPSの活用が難しい場面が多々あります。
金村:そのような場所ではどう対応されているのですか。
今井:弊社ならではの工夫として、ユンボの排土板にトータルステーションのミラーを設置しています。
金村:機械とミラーを連動させているのですね。
今井:トータルステーションとミラーのやり取りで計画高に合わせ、路床や路盤の施工を円滑に進めるように試みています。環境に合わせた最適なデジタルの使い方を模索しています。
電子小黒板による写真管理の効率化
金村:他にもソフトウェアやシステム面での活用はありますか。
今井:現場では「電子小黒板」を活用しています。
金村:どのような効果があるのでしょうか。
今井:現場で撮った写真を工種ごとに自動で振り分けてくれるので、事務所に戻ってからの残業時間を大幅に削減できています。
金村:現場監督の負担がかなり軽減されますね。
今井:これまでは手作業で行っていた部分がデジタルで完結するので、より現場の管理に集中できるようになりました。
LINE WORKSによる勤怠・日報のデジタル化
金村:事務作業やコミュニケーションの面ではいかがですか。
今井:「LINE WORKS」を導入して、勤怠管理や日報の作成を行っています。
金村:会社に戻らなくても報告ができるのは便利ですね。
今井:はい。現場からスマホ一つで日報を上げられるので、わざわざ事務所に戻る必要がなくなりました。少人数で効率よく現場を回すために、こうしたツールは欠かせません。
社員の主体性を尊重するトップの姿勢
金村:こうしたデジタルツールの導入は、今井さんが主導されているのですか。
今井:正直、私はあまり詳しくありません。でも、社員が「これを使えば便利になる」と提案してくれるものには、積極的にGOサインを出しています。
金村:社員の皆さんが主体的にDXを進めているのですね。
今井:地元の同業他社との情報交換の中で、「あれが良いらしい」という情報を取り入れてきてくれます。私はよく分からないなりに、社員の想いを尊重してオッケーを出しています。
チームで作り上げる喜びとDXの本質
金村:1人で測量ができる効率化も素晴らしいですが、今井さんとしてはチームでの仕事も大切にされていますよね。
今井:効率化は大事ですが、1人だけで現場を理解するよりも、少人数の会社だからこそみんなで「ここにこういうものを造るんだ」と最初から共有したいと思っています。
金村:デジタルの便利さと、チームのコミュニケーションを両立させているのですね。
今井:撮影現場もそうですが、いろんなアイデアを出し合ってより安全で品質の良いものを造る。デジタルはそのための手段の一つだと思っています。
建設と映画のノウハウを融合させた未来
金村:今後の展望についてお聞かせください。
今井:建設と映画、それぞれのノウハウを融合させていきたいです。撮影現場ではセットを一度使ったら壊してしまいますが、それを再利用する仕組みなども考えています。
金村:SDGsの観点からも素晴らしいですね。
今井:建設現場で出たコンクリートの廃材なども、撮影現場で荒れ地を再現するセットとして活用できます。捨ててしまうものを宝の山に変えていけるような取り組みを広げていきたいです。
日常のあらゆる風景を仕事に活かす
金村:今井さんは普段から、映画の視点で街を見ているのでしょうか。
今井:そうですね。ドライブしていても、他の会社のストックヤードを見て「あれ、撮影に使えるな」なんて考えてしまいます。
金村:まさにプロの目線ですね。
今井:居酒屋で飲んでいても、美術デザイナーの方から「本当の姿はこうだ」と教わることがあります。日常の何気ない風景の中にある「リアル」を、建設と映像の両方の視点で吸収して、仕事に活かしていきたいですね。
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