女性ならではの視点で未来を築く~大政建設株式会社
更新日:2026/1/14
▼目次
- 1 熊本のインフラを支える、土木一筋の歩み
- 2 創業92年。四代続く歴史ある建設会社
- 3 50年にわたり女性が守り続けてきた経営
- 4 「お婿さんを捕まえなさい」と言われた箱入り娘時代
- 5 お稽古事に励んだ文系女子が建設業界へ
- 6 業界団体への参加が変えた、自身の意識
- 7 民主党政権下の苦境で手渡されたバトン
- 8 現場の最前線で直面した「熊本地震」の恐怖
- 9 震災復旧を支えた、社員たちの献身
- 10 地域の感謝が教えてくれた、仕事の意義
- 11 地図を書き換えた「俵山トンネル」の開通
- 12 女性の視点を取り入れた「女子パト」の開始
- 13 「褒めパト」がもたらした、現場のポジティブな変化
- 14 女性トップの下で育まれた、優しい男性社員たち
- 15 建設業界初の快挙、経理システムのDX化
- 16 「心の余裕」を生むためのデジタル化
- 17 残業なし、17時前には帰宅できる環境
- 18 100周年に向けて、200年続く企業を目指す
- 19 独自の「女の勘マネジメントシステム」
- 20 引退後の夢は、保護猫たちとの静かな暮らし
2025年5月4日(日)15:00~15:55
ゲスト:大政建設株式会社 代表取締役・森山澄江さん
昭和8年創業、今年で92年を迎えた熊本市の大政建設株式会社。国有林の中の林道や治山工事からはじまり、現在は公共工事の土木全般を施工。新幹線や駅裏のトンネル、白川の河川工事などを行ってきました。「建設業は、古くから多様性を受け入れてきた最先端の業界」だと考える森山社長。女性ならではのユニークなアイデアや、100周年を見据えた今後の展望は必聴です。(熊本県熊本市 熊本シティエフエムにて収録)
熊本のインフラを支える、土木一筋の歩み
クラフトバンク中辻(以下、中辻):まずは大政建設がどのようなお仕事をされている会社なのか、詳しく教えていただけますか?
森山澄江さん(以下、森山):私たちの主な業務内容は、公共工事の土木を元請けで行うことです。具体的には道路の新設や河川の改修、熊本であれば九州新幹線の建設に関わる仕事など、多岐にわたる土木工事を手がけています。
クラフトバンク田久保(以下、田久保):土木のことなら何でもお任せという感じですね。
森山:そうですね。地域に根ざしたインフラ整備を全般的に行っています。
創業92年。四代続く歴史ある建設会社
中辻:創業が昭和8年ということで、非常に長い歴史をお持ちですよね。
森山:おかげさまで、現在は創業から92年目になります。
田久保:92年!それはすごい歴史ですね。森山さんは何代目の社長になるのですか?
森山:創業したのは私の祖父にあたる人物です。そこから父、母へと受け継がれ、現在は私が四代目の代表を務めています。
50年にわたり女性が守り続けてきた経営
中辻:女性が建設会社の社長を務めるケースは、業界内でもまだ少ないほうではないでしょうか。
森山:そうですね。大政建設では、私の母の代から数えて50年近く女性が経営を担っています。全国的にも、土木が主体の会社でこれほど長く女性がトップを務めている例は、珍しいのではないかと思います。
田久保:住宅系やリフォームの会社では女性社長もいらっしゃいますが、ガチガチの土木会社ではあまり聞きませんね。
森山:一時的に代表を務められる方はおられますが、大抵は息子さんに引き継がれるまでの繋ぎという形が多いです。うちのように歴史の半分以上を女性が支えているのは、やはり稀なケースかもしれません。
「お婿さんを捕まえなさい」と言われた箱入り娘時代
中辻:森山さんは、小さい頃からお母様が経営者として働く姿を見てこられたわけですが、ご自身も将来は社長になると想像していましたか?
森山:いいえ、全く想像していませんでした。建設業界は男性社会だという認識は今よりもずっと強かったですし、私自身もそう思っていました。
田久保:お母様からはどのように育てられたのですか?
森山:父が早くに亡くなったこともあり、母は「良いお婿さんを捕まえるために頑張りなさい」というスタンスで私を育てました。社長になれとは一言も言われませんでしたね。
中辻:「社長としての教育」ではなく、家業を支えてくれるパートナーを見つけることを期待されていたのですね。
お稽古事に励んだ文系女子が建設業界へ
田久保:学生時代の専攻などは、建設とは関係なかったのですか?
森山:全く関係ありません。むしろお稽古事が最優先の生活で、日本舞踊やお茶、お花といったことばかり習わされていました。
中辻:まさに伝統的な「お嬢様」という感じですね。
森山:学校も、落第しない程度に通っていればいいという教育でした。卒業後も外に働きに出るのではなく、家業を手伝いながら良い縁談を待つという、今では考えられないような昔ながらの育てられ方でした。
業界団体への参加が変えた、自身の意識
中辻:そこからどのようにして、社長への道を歩むことになったのですか?
森山:家業を手伝い始めてから、建設業協会の青年部にお誘いをいただいたのがきっかけです。
田久保:そこで意識の変化があったのでしょうか。
森山:役職に就くようになると、周囲から「次は彼女が継ぐのかな」という目で見られるようになりました。本来、その会は後継ぎしか入れないような場所だったのですが、私は自覚がないまま入り込んでしまい、そこで皆さんに育てていただいたという感覚です。次第に、自分が継がなければいけないのかなと考え始めました。
民主党政権下の苦境で手渡されたバトン
中辻:お母様は、いつ頃から森山さんに継いでもらおうと考えていたのでしょうか。
森山:母自身、最後の最後までその気はなかったと思います。ただ、民主党政権になって業界の先行きが非常に厳しくなった時期がありました。
田久保:リーマンショックの時期とも重なり、建設業界全体が苦しい時でしたね。
森山:母も「もうダメかもしれない」と弱気になったタイミングで、私に代表権を譲ったようです。
中辻:一番大変な時期にバトンを渡されたのですね。
森山:そうなんです。「え、今?」と思いましたよ。女同士だからこそ起きた、少しシビアな事業承継だったのかもしれません。
現場の最前線で直面した「熊本地震」の恐怖
田久保:社長に就任されてから、これまでに印象に残っている出来事はありますか?
森山:やはり一番大変だったのは、2016年の熊本地震の時です。
中辻:熊本の皆様にとっては、忘れられない出来事ですね。
森山:余震が激しく続く中で、災害復旧の現場に社員を送り出さなければなりませんでした。あの時ほど恐怖を感じたことはありません。
田久保:普通の現場とは、緊張感が全く違ったのでしょうね。
森山:安全対策にお金をかければ守れるという状況ではなく、いつ何が起きるか分からない場所でした。「このままでは社員を死なせてしまうかもしれない」と本気で思いました。
震災復旧を支えた、社員たちの献身
中辻:災害時は建設会社の役割が非常に大きいですが、現場の方々の苦労は並大抵のものではありませんよね。
森山:地震直後から、社員たちは自分の家族を避難所に置いて、すぐに復旧作業に駆けつけてくれました。
田久保:ご自身の家も大変な中で、地域のインフラのために動かれたのですね。
森山:最初の三日間くらいは、食べるものにも本当に困りました。台所もガタガタになっていたので、お鍋を探し出して外でお米を炊いて、それを渋滞の中、何時間もかけて現場まで届ける日々でした。
中辻:普段なら30分で行ける場所が、数時間かかるような状況ですよね。
森山:往復だけで5時間以上かかることもありました。それでも、体力を消耗している現場の社員に温かいものを食べさせたいという一心でした。
地域の感謝が教えてくれた、仕事の意義
田久保:復旧作業はその後も長く続いたのでしょうか。
森山:一年以上にわたって、懸命な作業が続きました。
中辻:その経験を通じて、何か変化はありましたか?
森山:発生直後は本当に辛いことばかりでしたが、復旧が進むにつれて地域の方々から多大な感謝の言葉をいただけるようになりました。
森山:「この仕事をしていて本当によかった」と、心の底から思えました。私たちの仕事は、人々の生活に欠かせないものを作っているのだと、再認識した瞬間でした。
地図を書き換えた「俵山トンネル」の開通
中辻:これまでに手がけられた中で、特に思い出深いプロジェクトはありますか?
森山:熊本市内から阿蘇へ向かう道にある「俵山トンネル」の建設です。
田久保:有名なトンネルですよね。
森山:開通する前は、冬場は凍結するような険しい峠道を越えなければなりませんでした。トンネルを作っている時は、周囲には何もない田舎だったのですが、完成してから劇的に変わりました。
中辻:どのように変わったのですか?
森山:今ではおしゃれなカフェやペンション、別荘地がたくさんできています。トンネル一本でこれほどまでに地域の生活や風景が変わるのかと、自分たちでも驚きました。
田久保:まさに「街づくり」そのものですね。
女性の視点を取り入れた「女子パト」の開始
中辻:森山さんは社長として現場に行かれることも多いそうですが、独自の取り組みがあるとお聞きしました。
森山:「女子パト」という活動を行っています。元々は「女性目線での作業環境改善パトロール」という名前だったのですが、長いので略してそう呼んでいます。
田久保:通常の安全パトロールとは何が違うのですか?
森山:一般的なパトロールは不備を指摘したりチェックリストを確認したりするものですが、私たちの「女子パト」は「良いところを見つけて褒めるパトロール」なんです。
中辻:「褒める」ことが目的なのですね。
森山:技術的な知識が少ない事務職の女性社員も一緒に現場へ行きます。そこで気づいた「いいな」と思う点を探して、現場の人たちを称賛するんです。
「褒めパト」がもたらした、現場のポジティブな変化
田久保:現場の男性たちの反応はいかがですか?
森山:男性は褒められるとやっぱり嬉しいみたいです。通常の安全パトロールだと「またうるさいのが来たな」という空気になりがちですが、「褒めパト」だと「ぜひうちの現場にも来てほしい」と歓迎されます。
中辻:発注者の方々にも好評だそうですね。
森山:はい。褒めるポイントをチェックリスト形式ではなく、行った人が直筆の文章でレポートにするんです。発注者の方も、それを読むのを楽しみにしてくださっています。
田久保:現場の細かい配慮や工夫が、文章として残るのは素晴らしいですね。
森山:内勤の社員が現場の過酷さや、そこで頑張る人の姿を肌で感じられるのも、この活動の大きなメリットです。
女性トップの下で育まれた、優しい男性社員たち
中辻:大政建設の社員構成はどのような感じですか?
森山:他の会社さんと同じで、現場に出る技術職はほとんどが男性です。事務所を守るのが女性という構成ですが、うちの男性陣はとても優しいのが特徴です。
田久保:何か理由があるのでしょうか。
森山:長年女性が社長を務めているせいか、私たちのことを「うちの女子が」と言って大切にしてくれます。
中辻:男女逆転しているような、面白い雰囲気ですね。
森山:女性がトップにいて、その下で働くことに抵抗がない人たちが残った結果、今の優しい空気感が出来上がったのかもしれません。他の会社の方と一緒になるイベントなどでは、うちのブースだけ明らかに華やかで、男性陣が細やかに飾り付けをしていたりします。
建設業界初の快挙、経理システムのDX化
中辻:ここからはデジタルの取り組みについてお聞きします。特に力を入れている部分はどこですか?
森山:一番大きな成果を上げたのは、経理システムのDX化です。これで熊本商工会議所のDXアワードで賞をいただきました。
田久保:建設業界の経理といえば、昔ながらの手書き伝票が多いイメージですが。
森山:以前は全てが手書きでした。それを請求書が届いた段階でOCR読み取りを行い、全自動で振り込みや元帳への記帳、さらには工事原価の管理まで連動するシステムを構築しました。
中辻:それは画期的ですね。
森山:私が事務職出身だったので、取り組みやすかったというのもあります。NTTさんの協力も得ながら、一年ほどかけて一から作り上げました。
「心の余裕」を生むためのデジタル化
田久保:システムの導入によって、どのような変化がありましたか?
森山:一番は、経理の専門知識やベテランの経験がなくても、誰でも管理ができるようになったことです。
中辻:属人化が解消されたのですね。
森山:転記作業のミスもなくなりました。昔は数千万円の振込先を間違えるといったヒヤリとする出来事もありましたが、今はその心配がありません。
森山:その結果、事務員のストレスが劇的に減りました。お金に関するミスは人間関係にも響きますが、システムで自動化されたことで、事務所内の空気がとても良くなったんです。効率化よりも「心の余裕」が生まれたことが最大のメリットだと感じています。
残業なし、17時前には帰宅できる環境
田久保:事務職の方々の働き方も変わりましたか?
森山:はい。現在は事務員が3、4人で行っていた業務を、極端な話、1人でも回せるようになっています。
中辻:それは大幅な効率化ですね。
森山:余った時間で、現場の書類作成を手伝ったり、資格取得の勉強をしたりできるようになりました。うちの事務所は、16時45分にはみんな片付けを始めて、17時ちょうどには家路についています。
田久保:建設業界で残業がないというのは、非常に魅力的ですね。
森山:女性は子育てや介護など、自分以外の理由で休まなければならない場面が多いです。デジタル化で余裕を作っておくことで、急な休みでも誰かがカバーできる。そんな安心感が今の組織を支えています。
100周年に向けて、200年続く企業を目指す
中辻:大政建設の今後の展望についてお聞かせください。
森山:創業100周年を迎える時、その先の200年目が見えているような会社にしたいと思っています。
田久保:あと8年で100周年ですね。
森山:私は私自身で後継ぎがいないので、身内での継承にはこだわりません。外部からの承継やM&Aも含め、この会社をどうやって残していくかを社員とオープンに話し合っています。
中辻:非常に透明性の高い経営をされているのですね。
森山:私が社長を務めるのは70歳までだと宣言しています。それまでに、誰が継いでもしっかりと経営が回るような、そんな持続可能な仕組みを作ることが私の最後の仕事です。
独自の「女の勘マネジメントシステム」
田久保:森山さんの経営スタイルを、ご自身ではどう表現されますか?
森山:通称「女の勘マネジメントシステム」と呼んでいます(笑)。
中辻:面白いネーミングですね!
森山:うちの会社は社内書類が極端に少ないんです。一ヶ月に一枚の出勤簿を出せば、とりあえず給料がもらえるような仕組みです。
田久保:男性経営者だと、どうしても書類やデータを集めたがりますが、そこを削ぎ落としているのですね。
森山:社長が社員一人ひとりの様子やオーラを見て、誠実に仕事をしているかが分かっていれば、細かい管理は不要だと思っています。その分、社員も無駄な作業から解放されて、のびのびと働いています。
引退後の夢は、保護猫たちとの静かな暮らし
中辻:70歳で引退された後、やりたいことはありますか?
森山:今は仕事が忙しくてできていませんが、老後は保護猫たちと一緒に暮らしたいと思っています。
田久保:猫がお好きなのですね。
森山:今も5匹と一緒に暮らしていますが、引退後は行き場のない年老いた猫たちを引き取って、看取ってあげる活動をライフワークにしたいです。
中辻:社員の将来だけでなく、猫たちの未来まで考えていらっしゃるのですね。
森山:引退後も寂しくないように、今から一般社団法人を作って準備をしているんです。最後まで、責任を持って何かに貢献し続けたいですね。
■大政建設株式会社 https://taisei-kensetsu.jp/
■熊本シティエフエム https://fm791.jp/
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