ICT推進室の創設で、井中組が可能性拡張を志向
更新日:2025/4/25
井中組(鳥取県倉吉市)は、2022年3月に「ICT推進室」を創設した。室長には、政田樹氏が就任。メンバーには、井本彩紀氏と藤井萌々子氏、村上円氏、田中美香氏が抜擢され、全員が地元出身の女性で構成される形になった。ICT推進室の業務は、これまで外注していた建築・土木分野のドローン・レーザースキャナーなどを用いた3次元測量を実施すること。開始当初は、見慣れない画面とデータの取り扱いが多く、不明点がある場合は付き合いのあるコンサル企業の担当者に、根掘り葉掘り聞いてしまう時間も長かった。しかし、政田氏が「とにかく場数をこなすことによる克服を心掛けた」と話す通り、気の遠くなるような数のトライ&エラーでノウハウを蓄積。社内の現場担当者からも、「外部に委託する場合は、日程調整や天候が悪化した場合のケアなど、多大な時間・労力を要していたが、社内で内製化できたことで、生産性向上が実現できている」との声が上がっているという。

ICT推進室を設置した理由を井中紳二社長に聞くと、「今後、慢性的な人手不足や技術の伝承など、現場への影響が色濃く出る可能性を考慮した時、今すぐ具体策に取り掛からなければ手遅れになると感じ決断した。幸いなことに、当社には若く柔軟な考えを持つ社員が多かったので、チーム組成にはそこまで時間が掛からなかった。ICT推進室で集めた知見を、社内全体で共有できるよう準備を進めていきたい」と先を見据える。入社以来、現場で構造物の計測・測量をしていた村上氏を起用したのも、「3次元を駆使するには、現段階では2次元での経験が必要不可欠になる」という判断のようだ。創設からまだ1年少しという時期だが、藤井氏が「今年度中にはBIM・CIMなどの対応をしたいと考えている」と語るように、メンバー全員が高い意識を保ち続けている。井本氏も「これまで政田さんに頼っていた要素が多かったので、早期に重要な役割が任せられるよう、様々な経験を積み重ねて成長していきたい」と前を向く。藤井氏と井本氏は、政田氏の活躍を知り入社を決意した。その流れに続くように、村上氏、直近では田中氏が参画。建設業界では、若手の人材登用では苦戦が強いられることが通説だが、井中組には特異な良いスパイラルが巻き起こっている。


8月には、鳥取県土木施工管理技士会の講習会で、ICTに関する講演を予定するなど、井中組は県の内外で精力的な活動を行っている。井中社長は常に「今できる最善のことを手掛ける」と考えており、社内での成功事例は積極的に共有するべきという意識が強い。「上手くいったケースは当社だけに留めず、他社にも周知してこそ、地域および建設業界全体の活性化に繋がると考えている。建設現場は、多数の企業が束になって1つの目標に向かう魅力的な場所。今後も当社は地場に根差した建設業だという誇りを胸に、あらゆる可能性を模索していきたい」と目標を述べた。若く優秀な人材が集まり、積極的にDX活用を推進することで、社内外にポジティブな影響力を発揮する。取り入れることは容易ではないが、井中組の組織運営から学べる要素は想像以上に多い。


この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。