クラフトバンク総研

「未来を生み出す産業へ」井手解体実業が解体業のイメージアップに挑む

更新日:2025/4/25

 建造物の解体や廃棄物処理を主軸に、佐賀県で1番の工事件数を誇る井手解体実業。井手隆彦社長は「『解体業=破壊して捨てる』という印象を持たれがちだが、建物から木くず、コンクリートくず、鉄くずなどの資材を分解し、リサイクルしている実態を知ってほしい」と訴える。かつては、入社希望の高校生が、保護者の抱く「解体業のイメージ」により辞退に至ったという悔しい思いもした。この連鎖を断ち切るため、井手社長は「私たちの世代から業界を刷新していく」という強い意欲を見せている。

 井手社長が解体工事の世界に飛び込んだのは17歳の時。「幼い頃から起業したい明確な気持ちがあった。30歳での独立を見据え何屋さんかも分からず修行に入ったのが解体工事業者だった」と経緯を話す。修行時代から現場で様々な経験を積み重ねた結果が実り、当初の目標より6年も早い24歳で独立を果たすことができた。過去最大の危機は、2009年に発生したリーマン・ショック。2001年の創業から、順調に業績を伸ばしていたが、予定していた工事の中止や、資材の取引価格変動などの影響を受け、売り上げの半減を体験。経費削減や業務効率化を強いられたことで、経営状態の総点検を実施し、「使用のない機材の処分や余計な出費をゼロにするなど、無駄を徹底的に削ることで社員の給与を確保した」と当時を振り返る。極限まで工夫を凝らし続けた結果、売り上げは数年で回復し、その後は右肩上がりで成長を続けられているという。

 人生のターニングポイントは、「経営者としての在り方を学ぶ必要がある」と考え、参加した勉強会。それまで身に付けてきたマーケティングなど理論的な話でなく、「約束や時間を守る、嘘をつかない、早寝早起きをする、家族も含めた関わる人々に感謝する」など、「経営者の手前にある人としての心遣いやスタンスなどの重要性を、真の意味で理解できた点が大きかった。今となれば当たり前のことだが、ここで学んだことを実践する中で、目先の儲け中心の考えから、社員の幸せを最優先するようになった」と自身の中で巻き起こった変化を語る。現在は「人材採用と育成」に注力。新たな人材獲得のため、会社説明会の開催や、積極的なSNSの投稿などの取り組みを見せる。最近では軟式野球チームを作り、野球を通した採用を行うなど異色の活動も開始。プレー中には人となりや長所、連携の仕方など他では読み取れない特徴を把握できるようで、人材確保に苦戦する企業が多い中、今春から5人の新入社員を迎え入れるという特異な実績を残している。

 「SDGsの活発化など時代の追い風もあり、今後も当社のような環境に配慮し、解体後のリサイクルにこだわる企業の価値は、更に向上していくはずだ。未来の日本を創る上で、解体工事業は必要不可欠な産業。この現実を少しでも広く周知できるよう、まずは当社に多くの若者を募り、業界変革のきっかけ作りを手掛けていきたい」と抱負を語った。「業界改革の第一歩を、自分が経営する会社から始める」。井手解体実業は引き続き、解体工事を軸に「未来の造成」に貢献していく。

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