鉞組が「職人の最終キャリア」変革に挑戦
更新日:2025/4/28

鉞組(岐阜県高山市)の鉞勇貴社長が、来春を目処に鳶工事をはじめとする建設業に関する技能講習センター及びトレーニング施設を創設することを発表した。これまで鉞組が社内研修などで指導していた内容を、今後は応募者なら社外からでも受講可能になる。鉞勇貴社長は、「Instagramや旧TwitterなどのSNSを通じて、当社の技術指導を希望する企業が年々増える現状を受け、技能講習センターの設立を決めた。厚生労働省の審査に通る必要はあるが、年内の認定取得を目指したい」と見立てを述べる。この数年間で指導した企業数は約70社。入社から3ヶ月間で鉞組が実施する研修内容は、通常企業の約1年分に匹敵すると言われており、創設後の展開に期待が持てる。

鉞社長は、24歳の時に自身が役員を務めた会社の倒産を経験。当時の創業者が事前通告もなく夜逃げをした形の為、鉞社長の責任は無いはずだったが、これまでの関係上、工事を継続する責任があったこと。また部下を路頭に迷わせる訳にはいかないなど、様々な状況を勘案し借金を自分が背負うことを選択。「解決するには、起業して仲間を社員として迎え入れ、業績を上げて借金を完済するしかないと腹を括った」と当時の覚悟を語る。創業から間もなくし、社長自身と社員の仕事に対する熱量の隔たりが大きく、一度に10人程が業務をボイコットしたこともあった。しかし、そのような時も幹部からの「社長が何度も現場に介入するから、全体の動きが鈍化する。トップは、全体を見渡し物事が円滑に進む調整に専念すべき」などの助言を受け入れてきた結果、「今日まで順調な成長を続けられた」と、これまでの歴史を振り返る。会社の売り上げが10憶円を超えた時期からは、個の力だけでなく、いかに組織として継続的に成長できる環境を提供するかに意識が向くようになった。鉞社長自身も「誰の為に、何の為に、なぜ働くのか?自分はどうなりたいのか?」を突き詰めて自問すると、自然と「一緒に働く社員を幸せにしたい」「人の役に立ちたい」という利他的な答えが出るようになったという。年内には、新製品の「防護パネル」もリリース予定であり、着実な技術革新と組織運営を進めてきた鉞組は、会社が掲げてきた「卓越」「協調」「活躍」という価値観、そして企業理念「創る同志をつくる」を、創業23年目の今もなお体現する特異な企業となっている。

今回の技能講習センターを創設する上で、鉞社長が第一に考えたことが「職人の最終キャリアを、後進育成に当たるトレーニングセンターの講師にしたかったから」と話す。特に鳶工事は、若い時期は体力的な無理を押し通せるが、年齢を重ねるごとに限界が表れ始め、キャリア終盤で別の仕事を余儀なくされるケースが少なくない。「これまで築き上げた経験と技術を惜しげもなく伝承できる体制を作る。これが建設業界に貢献できる最良の方法と確信した」と経緯を語る。鉞社長は、既に10年後のビジョンを設定し、そこからの逆算で計画的に一つひとつミッションを達成させている。「上に立つ者は、社員を応援するだけでなく全社員から応援される必要がある」と、経営陣の選定には「全社員からの支持率の見える化」を必須としており、鉞組が更なる活性化していく様相が目に浮かぶ。

「現時点で私自身の最優先事項は、来春の技能講習センターが定着させた後、当社内の人事考課制度や理念経営、人本位主義の仕組みを完成させることだ。その上で、企業永続を目指せる環境を整えた後、社長職を退く予定である。残された時間を建設業界全体のために、どれだけ寄与できるかが鍵になる。建設業界は私が10代の頃から従事している魅力的な産業。今後は、高度な技術を経験豊富な指導者たちから正確に習得できる環境を確立し、年齢・国籍を問わず多くの建設職人を活躍、成長、成功へと導いていきたい」。
この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。