創業120年に向け、原田組が新経営体制を発足
更新日:2025/4/29
今年4月、原田組(広島市安佐南区)に菰口真弘氏が常務取締役として入社した。菰口常務は、新卒から銀行に17年間勤務した経歴を持つ。前職では企業のコンサルティング業務や営業店のマネジメント業務を経験。結婚前に義理の父が専門工事会社の社長であり、後継者不在の状況を知り、「これまで蓄積した知識・経験を、上限のない会社経営で試したい」と、自ら髙橋秀彦社長に申し出て参画を決めた。熟慮の末の決断には、前職で後継者が不在の企業支援を手掛け、経営陣の苦悩が想像できたことが大きく、「私で良ければ力になりたいと考えた」と振り返る。

菰口常務は入社を決める前、髙橋社長に「過去10年分の決算書を見せてほしい」と懇願し、会社の定量・定性面を分析。自分なりのアクションプランを策定し、役員を含めた会社の重鎮に対するプレゼンテーションを経て、入社直後から会社変革の筋道を徐々に提案し始めた。入社から数ヶ月で顕著に成果が出たのは、キャッシュフローの部分。貸借対照表上の資本構成是正や遊休不動産の活用に着手し、キャッシュフローを改善。「銀行員時代の経験を経営基盤強化に活かし、今まで以上に本業に注力できる体制を築けている」と手応えを感じている。現在は、従業員が働きがいを持てるようパーパスの制定、CCUSを社員の育成システムとリンクさせた人事制度を思案するなど、アイデアは尽きないようだ。


高橋社長は、「私は根っからの建設エンジニアだった。異業種の経験を持つ菰口常務の入社により、経営の幅が広がりバランスの取れた経営を目指せるようになった」と率直に話す。社内では、建設工事を担当する職人が高齢化し、若手人材が不足する現実に懸念が出始めている。110年を超える歴史ある会社として、これまで高品質な施工を提供し続けており、高橋社長は「この技術を継承するため、全力で抱える課題を克服しなければならない」と並々ならぬ覚悟を見せる。大手ゼネコンを中心に確かな技術への信頼は厚く、社員にも地域社会に貢献する姿勢が根付いている。後継者となる菰口常務と共に、高橋社長が今後この確立したスタイルをどのように発展させていくかは注目である。


2人3脚での組織運営を心掛ける中、菰口常務は「原田組には業歴に相応しい魅力や強みが眠っている。一つ一つを掘り起こし、従業員やその家族が今以上に誇りを持って、前向きに仕事に取り組める会社にしたい」と目標を語る。人を資本と捉える人的資本経営を実践し、賃上げや能力向上の取り組みも開始した。直近では、原価管理の徹底やDX化に着手しており、「新しい取り組みにより捻出した原資を、人への投資に変換することで、従業員の働きがいや人材確保を進めていく」と意気込みを語る。現場での施工経験は無いが、M&Aなど金融業で培った理論・知見を駆使し、現在は社内で様々なトライ&エラーを繰り返す。

髙橋社長は「今後、確かな技能を保有する専門工事業者が優位になることを想定し、担い手の確保と施工能力の向上に注力する」と語る。若い求職者に自社・業界の魅力を発信できるよう、社内体制を刷新できるかが当面の鍵になりそうだ。菰口常務は、「建設業を取り巻く環境は刻々と変わっているが、この変化こそが建設業界の魅力でありチャンスだと感じている。当社が長年培ってきた良質なモノづくりを続ける中で、次の事業展開に向けた準備を進めていきたい」と一歩先を見定めている。


この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。