DX導入で「経営の見える化」を実現。ナカゼが社員倍増に向けた計画に着手
更新日:2025/5/20
現在、外装リフォーム全般受注や、社員の施工班がシーリング・防水・塗装・雨漏りの調査、屋根・外壁塗装などを手掛けるナカゼ(富山市)。中陳武社長は、父親が創業した同社に入社したが、一度は会社を辞めて出戻りした経験を持つ。退職の原因は、「父の経営方針において、激しい衝突が多過ぎて、このままだと刺し違える可能性があった」という危機感から。退社後、すぐに会社は更なる傾きを見せ始め、それを食い止める使命を受けた当時の銀行支店長の懇願を経て復帰した経緯がある。

復帰後、間もなくして社長に就いたが、即座に社員と経営者とでは、比較にならない立場・覚悟の違いが存在することを痛感。銀行融資が受けられず、消費者金融8社のカードを作成し、自転車操業による資金繰りを5~6年近く続けたという「今、思えば経営者失格」と自戒する苦しい時期を過ごしたこともあった。突破口になったのは、関東で展開されていたフランチャイズ「雨漏り110番」のグループに加盟し、ウェブページによる集客を始めたこと。潜在的な雨漏り工事の需要を察知し、下請けだけでなく、一般顧客である施主と直接の接点を持てたことで、売り上げを倍近くにまで広げることができた。業績が上がり始めると若手社員も多く入社するようになり、「徐々にではあるが、当社の経営理念『作る以上のモノづくりの追求』『生活空間の再生』を具現化できるようになった」と変化を話す。中陳社長は、このスタイルを永続するには、「社内外で『建物を長持ちさせる施工メーカー』として定着することが重要」と自認。その上で正確かつ適正な工事を浸透させるには、「骨の折れる作業だが、決して近道はないと腹を括って着実に遂行してみせる」という覚悟を持つ。


最近では、建設業に特化した経営管理ツールの導入を始めたことで、収益の可視化も実現。会社で一番の売り上げを占めていた工事が、蓋を開けてみると開始から赤字だったこと。また、赤字になる工事は止め、生産性の高い工事に集中すると、下請け工事の割合が3~4割から1割に減少し、売り上げは前期比170%増、粗利率も20%から38%に上昇したなど、既に良好な兆しが現れているという。中陳社長は、「DXの導入は、経営の見える化の他、それにより空いた時間を採用や社員の育成に充てられるなどメリットが多い。この長所を活かし、事業に強みを持たせつつ、新たな取り組みも始めていきたい」と戦略を語る。


中陳社長には、「6年後には社員を5倍近くに増やす」という目標がある。実現には、社員同士の更なる意識の共有や、共感力を強化するなど課題も多い。しかし現在、在籍する社員が順調な成長を果たせば、決して不可能な野望とはならないはずだ。「塗装業は、専門的な職種が故に、現場だけに出ていると視野が狭くなる傾向がある。当社で働く社員には、確かな技術の習得と共に、業務における中庸的なバランス感覚が身に付けられるよう、今後も快適な労働環境を提供していきたい」。

この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。