クラフトバンク総研

共栄建設がICT・DX駆使で難局を打開

更新日:2025/6/23

静岡県で公共・民間工事を手掛ける共栄建設(静岡県浜松市)が、ICT・DXを積極的に取り入れていく方針を固めた。取締役総務部長の松井大樹氏(以下・大樹取締役)による影響が大きいようだ。大樹取締役は、大学院まで建築学を学び、同じ研究室である仲間の多くがスーパーゼネコンを就職先にする中、「他業種で得た知見を建設業に活かしてみせる」とIT企業での勤務を決意。父親である松井直人氏(以下・直人社長)が4代目の代表取締役を務める共栄建設で働くことを念頭に置き、6年ほどシステム運用やクラウド基盤の開発などの実務経験を積んだ。同社のホームページは、大樹取締役が作成しており、会社は今年6月22日に設立60周年を迎える。

大樹取締役は、幼少期に父が携わり完成した道路の横を『お父さんが作った道路なんだ』と教わりながら車で走ることが好きだった。建設業に入職後は、検証環境の整備やバックアップが可能なITと違い、どんな悪天候でも原則1回の決断が全てを左右する現場の職人に尊敬の念を抱くことができた。しかし、業界内から周囲を見渡すと「世間は感謝以前に無関心に近いのでは?」と感じざるを得ないケースが少なくなかったという。自身の人生体験を基に「この現状打破に何をすべきか?」を突き詰めて考えた結果、「ICT活用やDXが不可欠。建設業を俯瞰的に見られる私だからこそ、興味のない若者にもフラットな目線で業界を伝え、ITをうまく組み合わせることで不要な不安を排除していきたい。私の時間と熱量を最も乗せられる領域はこの分野と捉え、今回の立案につながった」と経緯を語る。

直人社長は「大樹取締役が、様々なクラウドシステムやITツールを試し、社内のコミュニケーション円滑化や業務効率化を実現する姿を見て、徐々にでも責任や決定権は預け、任せた方が物事はスムーズに進むと感じた」と話す。土木・造成工事や顧客との条件交渉、役員として所属する各協会への出席など、直人社長でなければ担えない業務はまだ多いが、「それも3年程度の時間をかけて全て伝承していきたい」と先を見据える。新卒からゼネコンに入社し建設業界を熟知する直人社長と、ITと建設業の双方を経験した事業承継者である大樹取締役。共栄建設は現在、親子である2人が長所・短所を活かし補い合うことで、時代の新たなニーズに応えようとする、これまでにない展開を見せている。

「この数年は外的要因により売り上げが左右される状況が続いているため、何か別の選択肢を事業化し、利益を生み出せるシステムの構築が必要になる」と大樹取締役は課題を語る。施工自体の実績を伸ばしていくのは重要だ。しかし、「ICT・DXを駆使する建設企業」という時流に合わせた経営に取り掛からなければ、若者の建設業に対する関心は薄れ、業界全体の縮小に繋がる可能性があるという危機感は大きい。定期的に若手の採用を続ける理由も「まずは浜松の建設業に入ってくる人口を増やすことから始めなければ」という切実な思いからである。

「若手社員は、いち早く現場に出て経験を積むことが、会社の生産性向上に直結すると信じている。この循環を組織化するため、業務委託という形で複数の人々からアイデアを募る『副業人材』を導入する検討にも入った。社会情勢による制限もあるが、IT企業出身者としての強みを活かし、与えられた環境でベストを尽くしていく」と意気込みを語る。直人社長からも「事業承継を成功させるため、何を実施するべきかは理解している。これが最後の仕事と覚悟を決め、最善の決断を続けていきたい」という力強い発言が出る。今後、浜松特有の建設DXが生み出されていくか着目すべきだ。

新着記事

  • 2025.12.05

    門屋組が「200年企業」に向けた基盤強化をスタート

    門屋組(愛媛県松山市)が今年1月、創業115周年の節目を迎えた。これまでは民間工事を主軸に、住宅から商業施設まで幅広く新築を手掛けてきたが、門屋光彦社長の就任以降は、マンション建設への参入やメンテナンス事業などを強化し業 […]
    クラフトバンク総研記者松本雄一
  • 2025.12.04

    建設業の未来に向けた挑戦を継続 大雄工業

    大雄工業(大阪府堺市)の中西雄一社長は、今年1月に日本青年会議所建設部会の第59代・部会長に就任した。掲げたスローガンは、「土台〜建設部会を通じて一生忘れられない感動を生み出す〜」。京都会議を皮切りに、全国各地で開催され […]
    クラフトバンク総研記者信夫 惇
  • 2025.12.02

    伊田テクノカレッジを基軸に、盤石な体制の構築を志向

    「建設業を何も理解できていない状態で入社したんだ」 埼玉県に本社を置く伊田テクノス(埼玉県東松山市)の楢﨑亘社長が、少し照れながら打ち明ける。大学時代まで剣道に打ち込む毎日を送っていた。「全日本実業団大会で優勝を目指そう […]
    クラフトバンク総研編集長佐藤 和彦
  • 2025.11.28

    宮村鉄筋工業が「ものづくりは人づくり」を追求へ

    昨年4月、宮村鉄筋工業(福岡県大牟田市)の代表取締役社長に宮村良太氏が就任した。5年間の正栄工業(大阪府枚方市)での修行後に参画した家業。創業者かつ父でもある宮村博良会長の経営理念である「職人ファースト」を踏襲する形で就 […]
    クラフトバンク総研編集長佐藤 和彦