後藤組が次の100年に向けた体制強化に着手
更新日:2025/6/24
今年3月に後藤組 (山形県米沢市)が、経済産業省が主催する「DXセレクション2025」の最高賞であるグランプリを受賞した。来年には創業100周年を迎え、「newly=新しい、は強い。」をコンセプトに、既に次の100年に向けた挑戦を開始している。後藤組が「全員DX」を掲げて、本格的なデジタル技術の導入を始めたのが2019年。後藤茂之社長は、「DX化を目的にするのではなく、定着させることで社員がより働きやすくなること。また、お客さまに付加価値を提供する時間を最大化したいと取り組みを決めた」と経緯を述べる。現場のペーパーレス化やICT施工・AIデータの活用、社内IT人材の育成など領域は多岐に渡り、日々改善・改良を繰り返している。

後藤社長は、大学在学中に同社の社長に就任した特異な経歴を持つ。当初は周囲から「5年は前例踏襲で問題ない」と教わっていた。しかし、2年目が終わる時期には行き詰まりを見せ始め、すぐに「自分の色を出さなければ生き残れない」と経営スタイル変革の必要性を痛感したという。真っ先に直面した難局は、人事制度の改革を巡って長年会社の屋台骨を担ってきた幹部と衝突したこと。これ見よがしに辞表を提示され決断を迫られた際、「今、苦労するか。この人が定年を迎える10年後に苦しむか。後者を選べば確実に下の世代が育たない。同じ災難を味わうなら若いうちに経験すべき」とその場で判断。足が震えるほどの恐怖を感じながらも、責任を持って受理できたことが「現在の躍進に繋がっている」と振り返る。

後藤組では、16年前から「会社の理念に共鳴する人材を集めるには、毎年の新卒採用が不可欠」と現在まで継続している。入社前から企業としてのスタンスを明確に伝えて以降は、「明らかに会社の価値観を理解した人々が入るようになり、今では7割以上が新卒の社員で占める構成に変化した」と現状を語る。今年4月にも9人の仲間が新たに加わった。定期的に意欲に満ちた若者が増える環境は、自然と社内の活性化を醸成し、健全かつ公正な競争を創出できる。この点にいち早く気付き、「長期的な視野を基に本質的なノウハウを蓄積できたメリットは計り知れない」と感慨深げに語る姿が印象的である。

後藤社長が社員に一貫して求めていることは、「仕事の道具を揃えること」と「仕事のやり方を揃えること」。これは、業務に取り掛かる以前に取り組むべき整理整頓の重要性を指しており、「この2点が社内に浸透できたことで、デジタイゼーション(組織・個人のアナログ作業をデジタル化すること)し、デジタライゼーション(デジタル技術でサービスの付加価値を高めること)に繋げられた。このような日々の積み重ねが下地となり、DXの普及促進を実現したと確信している」と明言する。現在、会社にはM&Aの話も数多く舞い込んでいるが、「まだ、この2点が完璧でないと感じているため、現時点では行動に移す自信がなく全て断っている」と実態を話す。しかし、現実では新卒から順調に経験を積んできた社員が課長・部長などの役職に就き始めている。今後、更なる先の発展を想定すると「間もなくM&Aを実施し、ポストを増やす選択・努力もすべきでは?」と自問自答する時間も増えているようだ。

経営信条を聞くと「『前年度より成長した姿を見せ続ける』くらいかな?」と謙遜する後藤社長だが、「社員の年収を周囲の建設会社の倍以上にする」という気持ちは誰よりも強い。自他共に認める合理主義が故に、着目するのは売り上げより利益。「当社を信じて参画してくれた大切な社員に、給与として還元し続けるには利益率を重視するのは至極当然」と明確な立ち位置を示す。強固な財務体質を活かし、採用だけでなく社員教育にも大きな投資をする。「地域NO.1企業として、社会に価値提供を続ける」。盤石に整えた体制が揺れる気配は現状では皆無だ。後藤社長が次にどのような一手を打つのか注目である。

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この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。