東海信和が「人」への投資を重視した戦略を継続
更新日:2025/11/26
足場工事を手掛ける東海信和(愛知県名古屋市)は、くさび緊結式足場の可能性を追求している。2026年のアジア競技大会のメイン会場となる瑞穂公園陸上競技場(パロマ瑞穂スタジアム)のリニューアル工事では、これまでの競技場建設では前例のなかったくさび緊結式足場を全面導入した。従来の慣習に捉われず、新たな可能性に挑戦できた現実に対して、近藤晃生社長は「高い安全基準をクリアする当社にしかできない技術だったと確信している」と胸を張る。


近藤社長が家業である東海信和に参画したのは20年前。建築・土木のいずれにも対応する技術を有する同社は、過去最高の売上高を記録していた。しかし、その後に耐震偽造問題やリーマンショックなど、様々な社会的事件が巻き起こったことを背景に建設市場は低迷。「売り上げはピーク時から半減し、大量の赤字を抱えたことで倒産の瀬戸際まで追い込まれた」と苦々しい表情で振り返る。近藤社長は、不採算事業を整理しながら、健全な市場に変革を促すため、業界全体の疲弊に繋がっていた価格競争からの脱却を志向。当時の社長である父と対立するなど痛みも伴ったが、赤字の完済に成功し約1年で会社を立て直した実績を持っている。「一連の体験を経て、売り上げトップを目指すことに興味がなくなった。代わりに安全品質で日本一を目指すことに切り替えた」と苦境な状況下でも、自社だけでなく全体を見渡した組織運営をする重要性に気付けたという。



東海信和は、大手ハウスメーカー2社の住宅足場工事において圧倒的なシェアを持つ。「自由設計の住宅における足場工事は高難易度であり、職人には毎回ゼロから設計する思考力が求められる。同業他社が参入しなかったこの分野を徹底的に突き詰めた結果、絶大な信頼を勝ち取ることができた」と語る姿は誇らしい。この技術力を支えているのが、10年以上前から取り組む独自の社員教育制度。入社後に2年かけて技術を習得する「工事技術課育成プログラム」に加え、社員一人ひとりの「自立(律)」と「自走」を促す「メンター制度」を完備。技術と人間性の両面から社員の成長を後押しできる研修により、人材育成は着実に実を結んでいる。


近藤社長は今後の目標を「より安全で効率的な現場環境づくりをリードする存在になること」と明言する。「東海と関東でシェアを伸ばせたことで、ようやく業界の安全基準について提案できる立場になってきた。建設現場全体の安全と効率を本気で改善できる地位を確立したい」と力強く語る。倒産の危機から這い上がり、「みんなで安心と喜びをわかちあう」という独自の経営スタンスで組織を構築した東海信和。その強さの源泉は、高度な技術力とそれを支える徹底した「人」への投資にあった。同社の挑戦は、これからの建設業界のあり方を照らす、一つの道標になると筆者は確信している。

この記事を書いた人
クラフトバンク総研 記者 松本雄一
新卒で建通新聞社に入社し、沼津支局に7年間勤務。
在籍時は各自治体や建設関連団体、地場ゼネコンなどを担当し、多くのインタビュー取材を実施。
その後、教育ベンチャーや自動車業界のメディアで広告営業・記者を経験。
2025年にクラフトバンクに参画し、記者として全国の建設会社を取材する。








