三重電設が設立100周年に向けた展開をスタート
更新日:2025/12/25
三重電設(三重県四日市市)の齋藤賢司社長は、数年前に「業務効率化を重視する社内風土の醸成」と「DX推進による生産性向上の確立」を打ち出した。同指針を明示した動機は「残業ゼロの働き方を実現し、社員のプライベートを充実させるため」。現在、定時にはほぼ全員が帰宅する状態を保てるなど、順調な成果も続けられており、創業時から掲げる「会社は社員のためにある」という理念を体現する経営を徹底している。


齋藤社長は、電機メーカーや建築設計事務所勤務を経て、28歳で家業に戻る決意をした経緯を持つ。当初は先に入社していた弟たちに教わりながら現場で汗を流していた。しかし、2年後に転落事故で左腕を骨折する大怪我を負ったことで、「現場を離れる形に陥り、キャリアの転換を余儀なくされた」と苦々しそうに当時を振り返る。施工管理の道を歩むことになり、日々積算や設計業務に明け暮れる形になった。「誰もやりたがらない面倒な仕事の中にこそ付加価値があるのでは?」と会社が手間の掛かる仕事と敬遠してきた住宅新築・リフォームの電気設計などを率先して引き受けるようになった。その後、黙々と圧倒的な量をこなし続けた結果、社内の設計技術は飛躍的に向上。「これまで外注してきた図面作成を内製化したことで、コストダウンとスムーズな施工を実現できた」と持ち前の前向きなスタンスを実績に繋げることに成功した。


2009年12月には、父でもある創業者・英樹氏から39歳で事業を継承され、代表取締役社長に就任。「業務時間内に効率良く仕事をこなす」という明確なスタンスを提示し、生産性を上げるための改革を粘り強く続けてきた。近年では積算・原価管理システムを連携させ、これまで紙の伝票を切り貼りしていた事務作業もデータを取り込むだけで完了させるなど趣向を凝らす。過去の施工履歴もデジタル化できたことで、電話を受けた社員が即座に顧客対応できる体制を整えられたという。「面倒な事務作業をシステムに任せたことで、社員の心に余裕が生まれ、社内の美化やお客様に対する細やかな気遣いなどに直結した。まだ不完全な部分も多いが、引き続きアップデートを繰り返すことで課題の克服に挑戦したい」と話す表情には晴れやかな笑みが溢れている。

現在、三重電設には連日のようにM&Aの打診が舞い込んでいる。後継者不足で廃業する同業者が増える中、齋藤社長は「我々が生き残らなければ地域インフラが危ういことになる」と強い危機感を持つ。商圏を敢えて車で1時間以内の北勢に限定する理由は、トラブル発生時に即座に駆けつけ、顧客の安心を担保するため。「売り上げだけを追うのではなく、社員が幸せに働き、地道に信頼を積み重ねることを重視する」と地に足のついた事業を展開してきた軌跡は、一朝一夕で出来上がったものではなく、今後も更なる進化が期待される。「愛する地域と共に設立100周年に向け全力を尽くす」。先代から引き継いだ重要なバトンを胸に、齋藤社長は今日も最善な経営判断を心掛けている。

関連記事:建魂一適 『セントラルウインドアカデミー』
この記事を書いた人
クラフトバンク総研 記者 松本雄一
新卒で建通新聞社に入社し、沼津支局に7年間勤務。
在籍時は各自治体や建設関連団体、地場ゼネコンなどを担当し、多くのインタビュー取材を実施。
その後、教育ベンチャーや自動車業界のメディアで広告営業・記者を経験。
2025年にクラフトバンクに参画し、記者として全国の建設会社を取材する。








