水中ドローンを突破口に。淺間保全工業が新たな模索を開始
更新日:2025/6/5
淺間保全工業(東京都西東京市)が、今年2月の創業50周年を前に新規事業をスタートさせた。新たな事業は、浄水場に原水を取り入れる取水口やダムの点検・管理などを、水中ドローンを活用して実施するもの。長い期間、下水道の維持・管理に従事してきた同社が、これまでにない取り組みに着手している。

事業を始めるに当たり、2024年4月から事業プロデューサーとして日高保氏を招聘。水道関連のエンジニアリング企業での勤務経験や、着実に知見を蓄積してきた実績を受け、事業プランの策定から実行までの幅広い分野を担当している。日高氏は、「10月からは、コンサル企業とも連携し、現場にてドローンの試運転を始めた。現在は、ダムの深さ10㍍程度の位置にあるコンクリート構造物のドローン撮影を試みており、いずれ目視では見つけ難い、亀裂などの変状に関する問題点を発見するサービスとして確立させたい」と意気込みを述べる。事業を統括する統括部長の川村浩志氏も「当社は、今まで管路の点検などを手掛けてきており、『長年培ってきた技術を他に転用すれば、別の可能性を生み出せるのでは?』との仮説を経て事業開始を決断した」と経緯を語る。琵琶湖で行ったテスト運行では、ドローンの水面付近の走行と濁りのある水中での画像の取得及び不測の事態でドロ-ンが走行出来なくなった場合に使用するレスキュ-ドロ-ンでの救助訓練を実施した。

日高氏は、「ドローンは未開発の領域も多いので、1度悩み始めたら何も進めず立ち止まってしまう危険性もある。当社では『現在地は積極的なトライ&エラーの時期』と定義し、実践に繋がる過程として努力を続けたい」と長期的なスタンスを語る。他社との差別化のポイントを日高氏は、「高性能カメラを駆使と画像デ-タからコンクリ-トの寿命評価ができる点」と断言。現場で活用するドローンには、正面と側面に2台のカメラを設置。高度なレーザー測量機能も搭載することで、全方位を鮮明かつ正確に撮影できる環境を整えられたという。会社側からは、ドローン機器の選定からスケジュールの進行など、業務の大部分に関わる項目を委任されている。自身が思うままに活動できる状況を、日高氏は「プレッシャーしかない」と語るが、その表情は充実感に満ち溢れている。取材中には「川村と御園が存在するからこそ、私は自由に動けている。この三位一体の関係性が事業を支えている」との熱い思いも聞けた。責任と権限を与えられ、全幅の信頼を寄せられた中で動き出した試みが、どのような形となるか興味が尽きない。

今回のプロジェクトのゴールを日高氏は、「ダイバーでは入りにくい深淵部をドローンで撮影し、その画像からコンクリ-ト構造物の変状の程度をクラス分けし、3DCGで図面化するデータ整理ソフトを利用し最終的には自動的に構造物の寿命診断ができる仕組みを構築する事をゴールとして目標」に設定している。ロボットの自動化ができない状況下では、多大な需要が見込まれそうだ。現段階での課題は多く残されており、正式リリース日も未定となっている状態だ。しかし、「これがビジネスとして成り立てば、現場の生産性向上に直結し、人手不足の解消にも貢献できるはず」と先を見る。DXを使いこなすことで、未知の領域に挑戦する。淺間保全工業が示す姿勢には様々なヒントが潜んでおり、これからDX導入を試みる企業こそ参考にすべき点が多いはずだ。
この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。