西多摩建設業協会
更新日:2025/3/24

【万が一に備えた活動を】
西多摩建設業協会(榎森厚志理事長)は、常日頃から頻発する災害に対しての事前予防・対策を進めている。最近では、富士山が噴火した場合、東京都の被害はどの程度に及ぶのかというシミュレーションを実施。富士山科学研究所(山梨県富士吉田市)と連携する形で、様々な角度で万が一に備えている。榎森理事長(榎木工業・代表取締役)は、「実際に噴火した山の場所や規模、風向きなどによって状況は変わるが、都内に30㌢火山灰が積もる可能性もある。火山灰は粒子が細かいので、23区に3㌢程度でも積もれば、おそらく普通車は走ることが困難になり、鉄道などの交通機関も機能しなくなることが予想される」と見立てを話す。岩浪岳史副理事長(岩浪建設・代表取締役)も「火山灰の後処理は、除雪と似通う要素もあるが、相違点は時間が経っても火山灰は水に変化せず、運搬して処分するなど、除去の必要性が出ること。平時である今から、あらかじめストックヤードや残留物を集める候補地などを選定し、都民の安全・安心を確保しなければならない」と危機感を募らせる。


【「火山灰の対応」の明文化を】
榎森理事長は、「首都圏に直下型地震や歯止めの利かない集中豪雨が起きた場合、代表者、技術者、技能者、作業員の全てが地元に住み、重機や資材センターを自社で保有し、即座に出動できるのは、都内では当協会くらいだという自負はある」と分析。特に東京は地方とは違い、雨水管と下水管が分離していないため、比重の重い火山灰が下水に入り込んだ場合は勾配が緩いため、自然に流れず全てが堆積するリスクがあるという。23区では、除雪のノウハウが十分にない建設企業も多いため、早急に東京都危機管理対策室や国交省の担当者と共同で、都・国は何を望み、どこまで寄り添えるか。また、目指す事柄に対してどこまで補完すれば良いかなどのルール決めを進めるべきである。具体的には、東京都でも明確なガイドラインを作り、再締結する際の災害協定内に「火山灰に対する対応」という文言を入れ込むなど、より踏み込んだ対応を行わなければ、都民が取り返しの付かない事態に見舞われる可能性が高い。

【もしも富士山が噴火したら?】
今年6月5日には、TBSテレビのドキュメンタリー「ニッポン超緊急事態シミュレーション もしも富士山が噴火したら!?」において、火山灰を使った大規模実験を青梅市で実施した。番組では、西多摩建設業協会が全面協力の下、国土交通省が提供した鹿児島県・桜島の火山灰約30㌧を運搬。重機で木造住宅の屋根に灰を積もらせ、家屋にどのような影響が出るのか実験した。当日は、油圧ショベルで住宅の屋根に火山灰を5㌢、10㌢、20㌢と徐々に増やしていき、同時に雨に見立てた水を噴射。水を含んで重さが約1.6倍になった火山灰が約20㌢積もった時に住宅の一部が崩壊したことを確認した。番組に出演した山梨県富士山科学研究所の吉本充宏氏は、「実際の住宅に火山灰を積もらせる実験は、国内では例がない」と回答。上坂健一副理事長(上坂重機開発・代表取締役)は「当協会では、重機や散水車、運搬車両の準備、オペレーターの他、運転手など10人ほどの動員で協力した。火山灰という観点で緊急時を想定する建設団体は、これまで都内に無いはずだ。引き続き地域の安全・安心を守る建設業として、様々な災害に準備した体制を整備していきたい」と気を引き締める。当日は、協会役員だけでなく、東京都や青梅市の職員、都議会議員の田村利光氏などが実験を見守り、これまでにない問いを世間に投げ掛けることができたようだ。


【組織変更後の転換事項】
西多摩建設業協会は、2021年4月に協同組合から一般社団法人に組織変更した。これにより、建設業として公益性や社会貢献を打ち出し、協会として行うべき事業を「建設業の発展」、「地域貢献」、「防災」と明確化できた。協会の策定事項を遂行する一方、岩浪副理事長は「本音を言えば、一般の方が抱く建設業のイメージを変えていきたい思いが強い」と実感を込めて話す。上坂副理事長も「建設業者が災害時に出動する際は、基本的には赤字での活動だという現実も皆さまに知って頂きたい。日々の生活を送る中、一般の方が『建設業=ダーティー』と思われていると感じるケースも多く、このイメージが人手不足の加速に繋がっているとも考えられる。建設業は地域社会に住む人々の生命・財産を守る重要な仕事のはず」と続ける。一般社団法人に変わって以降、各首長や市議会・都議会議員も毎年の総会や新年会に公式な形で参加できようになった。しかし、肝心要である世間に対して、建設業の重大性が浸透していない壁は想像以上に高い。西多摩建設業協会のメンバーは、この現状を少しでも良き方向に変えるため、奮闘する毎日を送っている。

【被災直後から最前線に向かう会員】
首都圏で大災害が発生した場合、榎森理事長は「おそらく3日後には、スーパーゼネコンが資金を大量に投入し、被災地外の場所から応援に来て頂けるはずだ。しかし、人命救助のタイムリミットと言われる72時間以内に、自らが被災しているにも関わらず、迅速に現場に駆け付けるのは、我々のような地場に根差した建設業者。自分たちの命を削ってでも、地元の安全・安心を守る覚悟で日々を過ごしているという現実も知ってほしい」と切実に訴える。西多摩地域でも若手の女性経営者や、重機を扱える若いオペレーターも徐々にだが増えてきた。このような良き変化を建設業界の活性化に繋げられるかが、重要な鍵になりそうだ。

【愛着ある地元を守り切る】
西多摩建設業協会は、身近な地域に根付く建設業団体として「街をつくり暮らしを守る」という精神を継承してきた。最近では協会内に組織する「若手経営者の会」も積極的な活動を見せており、新たな可能性が生まれる地盤も出来上がりつつあるようだ。榎森理事長は「時には立ち止まって構わない。しかし、ほんの少しだけでも良いから新しい要素を取り込みながら、決して後退しないスタンスを保ち、協会として出来る限りの最善策を着実に遂行していくことが私たちの使命だ」と明確な立場を表明する。生まれ育った愛着のある地元を、これまで培った知識・経験・技術を駆使して守り抜く。シンプルな動機だからこそ、それは説得力を帯び、様々な人を巻き込むエネルギーがある。「当たり前のことを着実に実行していく」。今回、西多摩建設業協会が提示した具体的な事案は、建設業に携わる全ての者が一度立ち止まって考える余地があるほど、普遍性があり示唆に富んでいるはずだ。

西多摩建設業協会のホームページ: http://www.nishikenkyo.or.jp/
富士山化学研究所のホームページ: https://www.mfri.pref.yamanashi.jp/index.html
この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。