「悪しき概念をぶっ壊す!」4Uが賭けるロープアクセスの未来
更新日:2025/4/29
「建設業界が人手不足に陥ったのは、魅力的な会社が少な過ぎただけ」。
4U(東京都清瀬市)の上田雅人社長にとって、「自分が働きたい」と感じられた建設会社は皆無だった。この現実を熟慮した2016年、国内法令でロープ高所作業が定められたタイミングを見計らい、ロープアクセス(無足場工法)専門工事会社「4U」を設立。同法令により、「日本でも従来のブランコ作業でなく、ロープアクセス工法が拡大できる」と見越した上での行動となった。4Uでは、創業から高所で足場を仮設せず、産業用のロープで吊られながら施工する、ロープアクセス工法に特化した事業を展開している。

上田社長は、「昨今では人工単価の値下げ競争が多く見られるが、当社では一切の値下げを引き受けていない」と断言する。「ロープアクセスは、足場より割安という印象を持たれているが、当社では『足場の弱点をロープで補う』という観点や、特殊技術の活用という信念の下で活動しているので、大部分で足場より割高な単価を設定している」と力を込める。「人工単価=会社の価値」という明確な基準。この点を顧客に最初から丁寧に説明し、納得の上で進められている点が、安値合戦に巻き込まれないポイントのようだ。適正価格で組織運営できることで、社員には他社より割高な給与を支払え、伸び伸び働ける環境を整備する。この評判が若者内の口コミで広がり、創業当初から広告費を一切かけない採用活動を実現している。現在も自社ホームページ・リファラル・SNSのみでの採用を徹底しており、応募が殺到し過ぎて自社での雇い切れない場合は、同業である仲間の会社に推薦するという好循環を生み出しているという。


2020年4月に上田社長は、「ロープワーカーズコミュニティー(RWC)」を発足した。きっかけとなったのは、同年1月にレインボーブリッジの施工をやり遂げたこと。大規模な工事だったため、自社だけでは対応できず、全国から有数のロープアクセス職人を集結させることに成功。1年以上も前から準備を進めた甲斐もあり、当日は3人1組の8チームで24時間体制の施工を無事に完遂できた。この体験を受け上田社長は「ロープでなければ対応できない工事は多いことが証明された。この現実を価値・認知度として更に高めるためには、同業者同士で争い合うのではなく、団結しなければ業界全体が沈む」と悟り、RWCの創設を決意した。現在の参加者数は、約80社以上・215人。業界特有の慣習により派閥を作りがちな傾向を、上田社長は「全てナンセンスな行為。業界の発展を目指すには、自身の正当性を主張するよりも、相互理解とリスペクトが重要だ」と今も立ちはだかる壁を打破し続けている。

上田社長は「10年後には、大ロープ時代が到来することが見えている。理由は、近々にも時代に対応できなかった建設企業は、自然と潰れ始める運命だから」と明言。「『若手が定着しない』や『働き方改革に対応できない』など文句しか言えない会社は、自らが『当社はブラック企業です』とカミングアウトしているのと同じ。私たちの世代でこの旧態依然とした価値観を破壊し、新たな建設業界を作り上げていく」という並々ならぬ覚悟を見せる。実際に4Uでは、週休2日にするか否かの働き方を、全て社員自身が選べるシステムを導入しており、「短期間で圧倒的な技術と経験を積んでみせる」と決めた社員は、寸暇を惜しんで働くことができている。離職率が低く不満を抱えて辞める事例がほぼないという秘訣は、小手先の理屈などではなく、社員の多様性と真摯に向き合い続ける寛容さにありそうだ。日本の建設業におけるロープアクセスの比率は、まだ1~2%程度。この割合を上田社長は伸び代と捉えている。「今後も私たちは、現場や職人を最優先にした業務を推進し、『独占』・『搾取』・『利権』・『談合』にまみれた建設業界の古き悪しき概念をぶっ壊していく考えだ」と高々に声を上げる。


4Uには、トレーニング施設も完備されており、同業者に独自の講習会を開放するなど、常にその活動は外部に向けられている。RWCを束ねる上田社長は、1社でできることには限界があることを十分に理解している。ロープアクセス業界の未来には、既に明るい兆しが見えている。
この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。