「職人の待遇改善に全力を尽くす」 ANTが目論む変革後の世界
更新日:2025/4/25
「なぜ職人の給料はこれ程までに低いのか?」
ANTの小澤克洋社長の中で、長年くすぶり続けてきた疑問である。足場職人の個人事業主として、どの現場でも重宝される程、唯一無二の技術を習得し仲間も増えた。しかし、最前線で汗を流す職人が報われない現実に納得ができず、企業としての活動を実施しない限り、社会的な説得力は持てないと悟り、法人化を決断した。現在は、会社が担う仕事を1つ上のステージに押し上げたいと、建設業許可を増やすことに注力。足場だけでなく補修・補強、橋梁工事でも管理者を立て、1次下請けに入り込むために入念な準備を進めている。


小澤社長が常日頃から考えていることは、「どうすれば若手の能力を引き上げられるのか」。入職時から一貫して「良い職人を育てたい」「頑張った人を報いたい」と強く願っており、これらを実現するには、「入札参加も考慮した事業を展開し、下請けに対するアプローチを当社から変えなければ職人の単価は上がらない」と判断。社内では、職人それぞれの個性と考え方を尊重しつつ、最終的には現場施工から全体の管理、監督とのコミュニケーション、現場調査、見積もり作成、着工までの段取りを1人で遂行できる教育を目指す。「一連の流れを全て提案できれば、年を取ってもどの組織でも通用する」という確固たる信念。構造的な多重下請けが常態化する足場業界では、所属先によっては40代以降の職人が、考えることを放棄するケースも少なくない。小澤社長は、「これまで思考停止によって、自らの選択肢を狭める人を数多く見てきた。当社の社員がこのような事態に陥らないよう、若手には実践できる環境を用意し、フォローアップする体制も整えることで、正しい経験を積ませたい」と具体的な育成手法を語る。最近では、マルチアングルやクイックデッキ、V-MAXなどの足場だけでなく、社員が他社に法面工事の技術を身に付けるために出向くなど、新たな可能性の拡張も試みているようだ。



小澤社長には、「良い職人を生み出せる機関を作った後に、自分のキャリアを終えたい」という目標がある。様々な人の協力があってこそ成り立つ、この目的を実現するには、「更なる社会的な信用と説得力が必要」と自身で深く理解している。そのため、今後も「売り上げだけでなく利益率も重視した経営を手掛け、会社としての価値を上げ続ける」と強い覚悟を見せる。会社の業績が上向き始めると、1人親方時代には見向きもされなかった経営者からも不思議と声が掛かるようになった。小澤社長の原動力は、「職人の待遇を改善することで、建設業界の体質を変えていくこと」。所属する全国仮設安全事業協同組合(ACCESS)の青年部には、公私ともに固い信頼関係で結ばれる同志も多い。「1人で出来ることには限界がある。今後も同じ目標を持った仲間たちと助け合うことで、若い職人が報われる業界を作り上げていきたい」と明確なビジョンを持ち、小澤社長は今日もANTの舵取りを担っている。


この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。