「信頼と実績」の有賀組が、安定経営の追求を継続
更新日:2025/4/29
有賀組(山形県鶴岡市)は昨年4月、会社設立20周年を迎えた。これまでの道のりを有賀哲社長は、「短いようで、あっという間に過ぎていった感覚だ」と語る。創業から最も苦境に立たされたのは設立当初、仕事の確保に苦慮した時期。「しがらみが増えるだけ」という理由から、「絶対に同業からの下請けはやらない」と確固たる信念を掲げた。しかし、それ故にゼロから案件を獲得する必要があり、「金融機関や各団体の会合など、とにかく人が多く集まる所に顔を出し、自社の普及促進と関係構築を続けた」と当時を振り返る。無事に仕事が安定し始めると、今度はその状況を維持するため、社長自身が頻繁に奔走する日々が到来。「現状のままでは、幹部社員が育たなくなる」という危機感から、重要案件でも職長を信頼して任せる方式を確立すると、ようやく組織としての事業展開が可能になったという。

現在は、法面や橋梁、吊り足場施工などの部門に注力。社内には仮設設計部を創設し、全ての足場施工案件で、ダブルチェックと安全パトロールを徹底する。日頃から有賀社長が「安全に対しては、やり過ぎという概念は不要」と話す通り、状況次第では現場作業を止めてまで入念な確認を実施するケースもある。このスタンスが、顧客からの「信頼と実績の有賀組」との定評が得られた秘訣であり、この観点を設立当初から会社の基本方針に設定した点が、その後の躍進に繋がっている。「職人の指名制」を採用して以降は、顧客からリピーターとして定着するエース社員も生まれ、「やり甲斐の向上と自発的に働ける職場も作ることができた」と胸を張る姿が印象的である。


有賀社長は、5年後を目処に婿である昌弘常務に事業承継する方針を固めた。決断に至った要因は「若いうちに社長を経験しなければ、その後の伸び代が限定されてしまう可能性が高い」という見立てから。「経験不足」や「時期尚早」という名目で、即決・即断を避け一旦様子見を決め込む企業は多い。しかし、「20年以上のスパンで考えると、やはり30代の社長を誕生させ、今から20代の若手強化を進めなければ、企業永続は実現できない」と常に緊迫感を持ちながら先を見据える。5年後に有賀社長は55歳、昌弘常務は35歳になる。今後、世代交代までの期間、創業から有賀社長が培ってきた経験・技術などがどのような形で受け継がれるか見所である。


「当社のモットーは、『業務を通じて社会に貢献すること』。今後も安定経営の追求を継続していくため、安全性・技術力・人材重視を優先にした組織運営を心掛けていく」と展望を語る。有賀社長には、「足場は、地図に残らない芸術作品」という信条がある、その精神は社員1人1人にも継承され始めているようだ。慢性的な人手不足で苦しむ企業が多い中、今年度はInstagram経由で6人の新入社員を採用し、現在の社員数は60人を超えている。常に時代の先を見た組織運営を志す有賀組。永続経営に向けた挑戦は始まったばかりだ。
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この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。