クラフトバンク総研

友好的M&Aでベルシフトが新たなスタート

更新日:2025/5/2

昨年5月、1961年に創業した鈴紘建設がベルシフト(静岡県沼津市)に社名変更し、新たなスタートを切った。代表取締役を務めるのは志賀明氏。グループ企業となったアースシフト(静岡県葵区)では営業部長も兼任する形で、両者の橋渡し役を担っている。元請け・協力会社として良好な協力関係を築いてきた両社が、なぜM&Aという形で再出発を果たしたか興味が尽きない。

 橋梁工事などを手掛けていた鈴紘建設の鈴木敏也社長が、アースシフトの近藤大智専務に「廃業→解散を考えているので、従業員を引き受けてほしい」と相談に来た時期が昨年3月。長期に渡り、静岡県のインフラを守り続けた確かな技術と、周囲から慕われ続けた会社としての信頼性。「蓄積された知見が消滅する→ノウハウが散逸するのは建設業界の損失」と感じた近藤専務は、事業継続による協業体制を提案し、驚くほどのスピードで友好的なM&Aが成立した。

 再始動から半年ほど経過したが、既に静岡県の発注工事を3件受注するなど、明るい兆候が現れている。志賀社長は、「アースシフトのグループ企業として。また、これまで培った知識・経験を更に発揮できる組織になるよう全力を尽くす」と意気込みを見せる。今までとは異なる環境下での労働に、最初は戸惑いを見せていた社員も徐々に慣れ始め、これまで以上に積極的な動きを心掛けるようになった。志賀社長の就任は、親会社となったアースシフトの若手社員にも「社内で圧倒的な結果を残せれば、グループ会社の代表になれる可能性もある」と新たな目標設定にもなる想定外の効果も生み出せているようだ。

 志賀社長は、「親会社・アースシフトにぶら下がる状態にするのではなく、AIなど新たなテクノロジーも取り入れることで、グループ全体を引っ張れる存在にベルシフトを押し上げたい」と展望を語る。5人の社員で業務範囲も限られる状況だ。しかし、自社で公共工事を落札し、その利益をグループに還元する仕組みが、ベルシフトの設立により現段階でも構築されつつある。前社長の鈴木を始め、社員1人ひとりも早く馴染もうと、新たな学びを積極的に取り組む姿勢も、周囲にポジティブな影響を与えている。

 「ベルシフトの挑戦は始まったばかり。今後も着実に実績を積み上げることで、グループ全体を引っ張れるような会社を目指す」と目標を語る。新たな歴史の創成に立ち向かうベルシフトの一挙手一投足から目が離せない。

関連記事:業界リーダーに迫る 『「職人第一」のアースシフト。事業承継を前に組織基盤を盤石化へ』

新着記事

  • 2025.12.02

    伊田テクノカレッジを基軸に、盤石な体制の構築を志向

    「建設業を何も理解できていない状態で入社したんだ」 埼玉県に本社を置く伊田テクノス(埼玉県東松山市)の楢﨑亘社長が、少し照れながら打ち明ける。大学時代まで剣道に打ち込む毎日を送っていた。「全日本実業団大会で優勝を目指そう […]
    クラフトバンク総研編集長佐藤 和彦
  • 2025.11.28

    宮村鉄筋工業が「ものづくりは人づくり」を追求へ

    昨年4月、宮村鉄筋工業(福岡県大牟田市)の代表取締役社長に宮村良太氏が就任した。5年間の正栄工業(大阪府枚方市)での修行後に参画した家業。創業者かつ父でもある宮村博良会長の経営理念である「職人ファースト」を踏襲する形で就 […]
    クラフトバンク総研編集長佐藤 和彦
  • 2025.11.27

    渡辺建設が「建設業一筋」で未来を築く

    「会社にとってプラスになる仕事は積極的に引き受けている」 渡辺建設(静岡県裾野市)の渡辺正高社長が、2020年に代表に就任して以来、重要視してきた信念である。昨年11月には、常磐大学で一日講師を担当し、企業経営をテーマに […]
    クラフトバンク総研記者松本雄一
  • 2025.11.26

    東海信和が「人」への投資を重視した戦略を継続

    足場工事を手掛ける東海信和(愛知県名古屋市)は、くさび緊結式足場の可能性を追求している。2026年のアジア競技大会のメイン会場となる瑞穂公園陸上競技場(パロマ瑞穂スタジアム)のリニューアル工事では、これまでの競技場建設で […]
    クラフトバンク総研記者松本雄一