クラフトバンク総研

建設多能工リスキリング協会の設立で、群馬建水が業界改善を目指す

更新日:2025/4/25

防水施工などを手掛ける株式会社群馬建水(群馬県佐波郡)の宮沢勝富士社長は、年内に「一般社団法人 建設多能工リスキリング協会」を設立する。同協会は、職人に多数の技術習得ができる機会を提供することで、社員の多能工化を進め、建設会社の可能性拡大を目指す建設専門の団体。業種毎に生まれる繁忙期・閑散期のギャップを社内で補完する仕組みを構築し、業界全体の人手不足を解消することも目論んでいる。

宮沢社長は、「季節や天候などに左右される建設現場を考慮すると、複数の技術を身に付けることで、1人の職人が様々な現場に分散して入れる環境が必要と見立て、今回の協会設立に辿り着いた。これまで建設業界には確固たる1つの技術を体得できたが故に、それのみに固執するタイプの職人が多かった。『1つの技術を極められたならば、その先にも無限の希望が存在する』という現実を業界全体に周知するに当たり、社団法人としての活動を決めた」と経緯を話す。株式会社群馬建水に在籍する72人の社員のうち、職人は約50人。「職人を抱えてこその建設企業。当社に所属する大切な社員が仮に独立という形を取っても、様々な選択肢がある状況下で決断できる環境を作りたかった」と本音を述べる。「建設業界特有の縦にある構造を、人材の流動性を進めることで横展開に変えたい」。現場に出続けてきた宮沢社長だからこその着眼点であり、今後の発展に注目である。

宮沢社長は昨今、事業承継がスムーズに進められない企業が多い要因を「能力に見合わない人間を後継者に指名した経営者の罪」と断言する。有望な社員が退職していく理由の大部分が「正当に成果を評価できず、利益を社員に還元しなかった結果」とも付け加える。昨年度には、実の息子も自らの志願により入社した。しかし、宮沢社長自身は「これまで不明瞭な理由による世襲で、会社が消滅した事例を数多くみてきた。この歴史を教訓に当社では、完全実力主義を敷くことで、次の世代にバトンを渡す考えだ」と先を見据える。現在の所、「あと12年で第一線から撤退すること」を想定する日々を送る。残された時間をどのように使うかを考えると、「企業永続を見据えて、心身ともに健全な実力者を抜擢することに全力を尽くす必要がある」と思い計る。その根底には、「複数の技術を保有する有力な職人を育成する機関が必要」と今回の協会設立にも繋がる点があり、宮沢社長の一貫した主張がどのように花開くかが興味深い。

当面の目標に「社員を更に増やすことで組織を活性化し、社内では多能工の技術者をワンストップで育てるシステムを構築すること」を掲げる。「多能工を増やすことは、慢性的に建設業界内で発生している『人手不足』の一助になる」という徹底した考えは、業界全体に浸透できるのか。宮沢社長が思い描く構想が実現するか否かは、業界全体の行く末を左右すると言っても過言ではないはずだ。建設多能工リスキリング協会の誕生が、業界全体に新しい選択肢として定着することを、筆者は切に願っている。

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