DX駆使を糸口に、エイチが「新3K」定着に挑戦
更新日:2025/5/2
「橋梁や土木、解体工事は好調だったが、足場だけは頭打ちの状況が続いていた」。
数年ほど前まで業務を続けながらも、エイチ(岡山県総社市)の千田英治専務は足場事業を、どのような策で盛り返すべきか思い詰めていた。そのような時期に突破口になったのが、会社全体で始めたInstagram。全国で同じ志を持ったOGISHI(埼玉県三郷市)や鉞組(岐阜県高山市)などの足場事業者と繋がり、「様々な工法を習得できたことが人生のターニングポイントになった」と振り返る。これにより岡山県では、初めてマルチアングルやクイックデッキ、V-MAXなどの工法を導入した企業となり、足場分野の業績回復も無事に実現した。現在のInstagramフォロワー数は1500を超えており、SNS経由で入社する新卒の数は年々増え続けているという。

エイチでは、開始当初からキャリアアップシステムやSDGs、グリーンサイトなどの取り組みに着手。「建設業界に在籍して20年以上になるが、岡山では2世代上の足場事業者で、今も生き残っている会社は皆無になった。工法に限って見ても、枠組足場は激減し次世代足場が主流になっている。時代は移り変わりを続け、変化に対応できない会社は滅びていくと感じ取り、各々の早期参加を決めた」と率直に理由を話す。SDGsではジェンダーレスを謳い、男女・国籍が理由で格差を付けない給与の設定を実施。一昨年には、エイチ初の女性設計士が誕生するなど、既に著しい効果を発揮している。


千田専務は「常に忙しい状況の事務員にゆとりを持たせたい」と、現在活用するDXツールにAPI連携・RPAを搭載する方針を表明している。具体的にはDX化の加速により、現在7時間かかっている事務員全員の作業時間を3.5時間にする計画である。この施策を打ち出した意図を聞くと、「時間に追われる状態の連続は、ミスを誘発し後々の大事故に繋がると実感し、今回の決断に至った。これにより事務員の負荷が大幅に軽減し、新たな可能性を見出す時間が作れることを期待している。私の目標は、社員全員で稼げる環境を用意すること。定着までの道のりは長いが、トライ&エラーを繰り返すことで到達したい」と思いを語る。既に事務員全員へのSNS手当も取り入れており、女子会を含めた飲食代の全額負担を保証。全員で会社アカウントを共有し、誰でも好きな時に投稿できる環境を整えたことで、反響は増大し続け、1日にDMが10通来る日もあるようだ。

現在、職人の賃金・単価が上がっている傾向を、千田専務は「若者に『建設業は稼げる!』という現実を示せる最大のチャンス」と捉えている。この流れを上手く活かせれば、若手の入職希望者が増え、建設業の社会的地位が上がり、業界全体の健全化に直結できるという見立てである。「若手の存在は業界・組織を活性化する貴重な活力。DX駆使を続けることで働きやすい職場を提供し、当社が唱える新3K(休日が多い、給料が多い、危険が少ない)が業界内に定着するよう、正々堂々と勝負していきたい」と熱い気持ちを述べた。千田専務には、「僕らの世代から建設業界の働く環境を変えなければ手遅れになる」という危機感が強く、過去に起こった全ての変化に対応した経験がある。エイチの導き出した糸口を、各建設事業者は参考にできるのか。私たちは現在、大きな岐路に立たされているのかもしれない。


この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。