陰圧装置を突破口に。アスメディックが理不尽な現実を刷新へ
更新日:2025/4/29
アスメディック(大阪府東大阪市)の手掛ける簡易陰圧装置の設置工事が、大阪府内で評判となっている。陰圧装置とは、気圧差を作ることで、病原体などが室外に漏れないようにする装置。室内の空気を取り込んでHEPAフィルターで処理し、屋外に排気することができる。これまで病院・手術室の内装工事で実績を積み上げてきたアスメディックに、コロナ対策で施設の改修を依頼するケースが増えてきているようだ。最近では、病院の他、介護施設やホテルなどにも進出しており、今後も更なる需要の拡大が期待される。
アスメディックは、2015年12月に町田佳昭(けあき)社長が創業した、内装工事専門会社。これまで国立・民間病院の医療施設にクリーンで機能性の高い環境を提供しており、ミリ単位にこだわる施工に対して、顧客からは「替えの利かない貴重な会社」として重宝されている。現在は、順調に業績を伸ばしているが、創業当初は「『女が建設業で続けられるはずない』と決め付けられ、税理士選びもできない状況が続いた」と振り返る。
これまで設計事務所や大手土木企業で、大規模な橋梁やダム、トンネルなどの設計を担当し、人並み以上の結果を出してきた。しかし、いざ起業に踏み切ると、「女だから」という文言を様々な場面で投げかけられ、「想像以上に苦しめられる状況に陥った」と話す。筆者がどのように克服したのかを尋ねると、「忍耐と継続」と即答。「前職時代から私に付いて来てくれた社員を路頭に迷わさないため、とにかく受注した全ての仕事で、専門性のある質の高い施工を心掛け信頼を獲得していった」。1つの仕事で結果が出始めると、口コミで評判が幅広く知れ渡り、すぐに数多くの大手ゼネコンがアスメディックの技術を頼るようになったという。町田氏が受けた理不尽な現実を自力で変えてみせた瞬間となったが、「同様の声は今なお頻発している。しかし、ここで事業を止めると、私と同じ境遇にいる女性経営者や、これから建設業界に進出を夢見る女性の将来を断念させてしまう可能性がある。業界内で女性が活躍する環境を浸透させるため、また有望な若者の夢を挑戦する前に途絶えさせないため、引き続き現状打破に挑戦したい」と強い意志を示す。理想を抱きつつ現実を冷静に見極め、その瞬間ごとに正しい決断を下していく。確かな経験に裏打ちされた町田社長の魅力の1つである。
「医療現場を支える高品質な施工を継続すると同時に、今後は陰圧装置部門ではメーカーとしての役割を果たしていこうと考えている。手術室は、ゼネコンですら把握できない限定的な空間。当社が培ってきた特異な技術を活かし継承していくため、最近では人材採用・育成面の強化も開始した。日々変化する病院のニーズにその都度応え続けられるよう、専門の知識と技術に誇りを持ち業務を推進していきたい」。町田社長には、一般クリニックを手掛ける領域に入った際、女性だけの職人集団を作りたいという密かな野望もある。感性豊かな女性が医療業界では高い評価を受けるケースは多いと聞く。今後、町田社長がどのような組織を形成していくかも、定期的にフォローする必要がありそうだ。
この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。