ロープアクセス工法を到達不可能点に押し上げる 日本空糸
更新日:2025/4/28
「地方の若者が暮らしたい場所で働ける職場を作りたい」。
日本空糸(岩手県一関市)の伊藤徳光社長は、畜産業を営む家庭に生まれ、幼い頃から人と自然を繋ぐ仕事を夢見ていた。高専時代には化学を専攻し、特殊産業廃棄物の無害化に携わる仕事に従事。その中でも、より自然に近い場所で仕事がしたいとの思いが募り、ロープによる調査・点検を行う企業に転職を決意した。技術を習得するまでの期間、現場で試行錯誤を繰り返し、2014年に個人事業主として創業。来年は会社設立10周年を迎え、東北エリアを中心にロープアクセス工法を中心にした事業を展開している。

伊藤社長は今年4月、新たに設立した日本ロープ高所作業協会(JSR)の代表理事に就任した。「ロープ高所作業に対する労働災害防止、安全啓蒙活動、人材育成、技術講習会などに携われると確信し、自らが名乗りを上げた」と話す通り、周囲の仲間からも賛同・応援を受ける形で事業の展開を進めている。現在は、来春からの本格稼働に向け特別教育のテキスト執筆などに専念。「ロープ高所作業における従事者の育成と安全基準の向上」を目的に、スムーズな組織運営を心掛けている。


国内の労働安全衛生規則において「ロープ高所作業」が規定された時期が2016年。その後、様々なロープに関する企業が創業してきたが、伊藤社長は「高所作業の技術は日進月歩で変わっている。伝統的なやり方を知っている人が、新しい技法を学べば、さらに安全性と効率性が底上げされる。協会では初学者も経験者も、現場で真に必要な技術が得られる環境を整備したい」と見立てを語る。「ロープでの移動技術は、経験0からでも、しっかりと学べば身につけることができ、墜落死防災害を防止しながら活動の幅を拡げられるのが利点。しかし、付け焼刃で真似してしまうと、重大な事故に繋がる危険性が高い。安全性・効率性を向上するためにも、当協会が担う役割は重要だと考えている」と使命感を持つ。日本国内においては、「ロープでの仕事は危なくないのか?」、「ロッククライミングとは何が違うのか?」という質問を未だに受ける事が多い。このような疑問に答えるためにも、またロープ高所作業の魅力を発信するためにも、JSRがどのような動きを見せていくか見物である。



伊藤社長は、自社である日本空糸での目標を「社員数の増大と安定的な受注の確保」と宣言する。現在7名の社員を、2030年までに20人程に拡大する意向は強く、会社の更なる発展を模索する日々は続く。全国各地に赴く現状のスタイルも、社員のライフプランなどを考慮すると、徐々にでも変えていく必要性を感じており、出張に頼らずに稼げる仕組みづくりなども課題に掲げているようだ。「ロープ事業は、活動のフィールドが多岐に渡る魅力的なもの。当社でも例えば小型鉄塔の点検・解体や風況ポールの設置などに携われるよう、引き続き技術の研鑽を続けていきたい」と展望を語る。同社のミッションは「到達不可能点への到達」。当社では、日本空糸およびJSRが今後、どのような未来を築いていくかをフォローしていく。

この記事を書いた人

クラフトバンク総研 記者 川村 智子
新卒で入社した建設コンサルタントで、農地における経済効果の算定やBCP策定などに従事。
建設業の動向や他社の取り組みなどに興味を持ち、建通新聞社では都庁と23区を担当する。
在籍時は、各行政の特徴や課題に関する情報発信に携わる。2024年よりクラフトバンクに参画。
記者として企画立案や取材執筆などを手掛けている。