クラフトバンク総研

「会津があってこその金堀重機」を軸にした組織運営を

更新日:2025/4/28

クレーン車・生コン圧送作業などを手掛ける金堀重機(福島県会津若松市)の春田一真社長は、新卒時からSBIホールディングス(東京都港区)に7年ほど勤務し、金融や投資などの業務に携わった経験を持つ。金堀重機・創業者の孫に当たり、後に妻となる真菜専務がスーパーゼネコンに出向し、現場監督として奮闘する詳細を結婚前から見聞きしていた。そのため、建設業界に入るには「生半可な意志では通用しない」と決意。入社直後から現場での仕事を買って出て、「生コン圧送作業のサポートなど、積極的な体験を積むことを心掛けた」と当時を振り返る。現場に出ることに加え、玉掛け技能講習や移動式クレーン運転士免許など 、様々な資格を取得し始めると、建設業の奥深さを知り、徐々に組織を運営する心の準備が進んだという。

入社して以降は、忙しい時期が続いていたが、景気が悪くなると、「クレーンかコンクリートポンプか、どちらか1つに絞られてしまうのでは」や「何か新しい事業を始める方がよいのでは」など、不安の声がささやかれる過去があった。こうした不安で迷うことがないよう、2019年1月の社長就任直後には「長い年月をかけて、確立してきた2本柱は、他社が簡単に真似できるものではない。皆の仕事はとても尊い。愚直に突き進めていけば、必ず未来が拓ける。この素晴らしい技術を伸ばし、若い人に伝承し守っていこう」というメッセージを強調して発信した。シンプルかつ明確な方針だったので、大部分の社員に根幹を理解して貰えた。しかし、これまでと違って現場を経験し、対話を重視するタイプの社長になったと捉えた有力な中堅社員が「現場を知っているからこそ、私たちがどれだけ頑張っているか分かっているだろう。もっと給料を上げてほしい」と懇願された。だが、会社の利益や既定のルール、これまでの実績を基に、今すぐは難しいと「正論」をぶつけ、力でねじ伏せたことで、感情的に対応し、最終的には退職させてしまった」と悔やみながら過去を話す。副社長の頃から、責任と権限をもって業務を進めてきたが、この瞬間に「当たり前だが私の肩書きが社長に変われば、社員からの目線や意見、要望は変わる。それ故に、社内には一層力を込めて『自分たちが愚直に築いてきた価値は高い。それを大事にしよう』と伝え続けると決めた」と詳細な経緯を語る。

義父である宮澤洋一取締役会長が「重機に関して、国内に新たな選択肢を作りたい」と、2013年に立ち上げた建設機械の輸入・架装・販売を行う会社「ズームライオン・ジャパン(福島県会津若松市)」も好調で、5月には幕張メッセで開催した「第5回 建設・測量 生産性向上展(CSPI-EXPO)」に出展。多くの来場者との意見交換を通じて、春田社長は「中国であっても海外メーカーの1つとして、その動向を確認したいという日本市場からの声を確認できた。建機の電動化が進む世界のトレンドを追いかける流れの中で、ズームライオン・ジャパンの活動も活性化させ、新たな可能性に挑戦したい」と意気込みを語る。同社の活動をヒントに、「圧送業者がメーカーの役割を果たせる」と追随する企業もあり、創業時に掲げた初志は違う形とはいえ、既に叶ったと言える特異なケースとなっている。

「今後は、お客様との対話を重ね、同じ現場でクレーン車とポンプ車の双方を活用して頂く機会をいかにして増やせるかを重点的に考える。これを突き詰めれば信頼を獲得でき、派生する重仮設工事や土木工事などにも携われるようになり、現場への関与率向上に直結する。現段階では克服すべき課題はとても多い。しかし、当社の活動が建設業界の発展にも繋がると信じて、地道かつ堅実な組織運営をしていきたい」と先を見据えた。

金堀重機が掲げている大義は、『あいづごころで 日本を照らす 誇りある郷土を子供たちへ』である。毎週月曜日の街頭清掃や、中高生向けのインターンシップ、子ども重機体験、そして金堀重機・感謝祭など、地域貢献に関わる活動には特に力を入れており、取材中は何度も春田社長から「会津があってこその金堀重機」という言葉が出ていた。同様の文言は頻繁に聞くが、春田社長と対面する時間を通して、同社はまさに事業を通じてその言葉を体現していると感じることができた。地域社会に貢献すべく、常に正しい変化を続けようとする金堀重機。新たな挑戦は既に始まっている。

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