顧客のコストをゼロに。金子商会が下関で圧倒的な信頼を得られる理由
更新日:2025/5/2

金子商会(山口県下関市)の金子義亮社長は2001年、創業者である父親からバトンを引き継ぎ、代表取締役に就任した。父の病による突然の社長交代以降、顧客の倒産や不渡りなどが発生し続け、塞ぎ込む日々もあったが、親族の支えもあり「何とか今日まで会社の運営を続けることができた」と、これまでの道のりを語る。経営ノウハウを学ぶきっかけは、地元の経営者で結成する「長州非凡会」という勉強会に参加したこと。多くの社長と情報交換を繰り返す中、「会社には経営理念が必要」と悟り、「快適な暮らしは快適な現場作業から生まれる」をモットーに掲げ、建築・設備資材などを地域で活躍する企業に届けている。会社は、来年1月1日に創業60周年を迎える。

会社の転換期となったのは、サブプライムローン・リーマンショック前に当たる2006年前後。弟でもある金子義治常務と共に、様々なデータを基に客観的な市況分析をすると、「この不動産価格の上昇は異常。このバブルは近々に弾ける可能性が高いので、不動産関連には手を出さないこと」と社内外に周知。会社の売り上げ約9割を占めていた、本管工事に関わる企業から、現在の新築・リフォームなどに携わる水道設備業者に顧客の割合をシフトした。金子社長は、この切り替えを「簡単な決断ではなかったが、ベストなタイミングで難局を乗り切る結果になった」と話す。義治常務も「それまで大規模な工事を担う会社に製品を導入していたが、利益率に着目すると2%程度という現実に直面していた。このまま価格競争に突入したら、確実に終わる日が来ると、大手が参入しにくい領域に踏み込む必要があった」と当時を振り返る。現在は、社内の倉庫に3000以上のアイテムを常備し、「お客さまの在庫コスト、待ち時間、現場の悩みを全てゼロにすること」を経営理念に、顧客が必要な際、即座に製品を届けられる体制を構築している。近年、金子商会が取引をする下関市内の水道設備業者は、全体の約8割に増えるなど、地元から圧倒的な信頼を得ていることも強みである。



「下関の建設会社には、既に代替わりを果たした30~40代の社長が多く、『血脈はないが土地の縁で、30年後も同じ企業にサポートしてほしい』と依頼する企業が多い特徴がある。当社は、このような業界の未来を背負う企業を下支えできるよう、今後もお客さまを最優先に考えた、きめ細かなサービスを徹底していく。人口減少・少子高齢化など、1社では解決し得ない業界全体の課題も多い。しかし、現実を直視しながら、地域の発展に貢献し続けられるよう、力を尽くしていきたい」。


この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。