クラフトバンク総研

水害対策のアタリマエを変える。止水板で日本の建物を守る、旭日建設の挑戦

更新日:2025/4/28

旭日建設(東京都江戸川区)の脱着式止水板「浸水ストッパー」が、台風や豪雨対策の一環として、全国の公共施設や避難所、住宅メーカーなどの多くに採用されている。近年多発するゲリラ豪雨被害の拡大や甚大化に当たり、各行政・企業の危機意識が急激に高まった影響が大きい。最近では、ユニバーサルスタジオジャパンや関西国際空港などにも導入している。

浸水ストッパーは、丈夫で錆びないアルミ製。幅1㍍、高さ16㌢、重さ3㌔と軽量で、女性でも簡単に設置することができる。土のう替わりの高さ370㍉から、止水壁の高さ2㍍まで組み立てることができ、希望に沿って高さを細かく選べることが特徴だ。また上部と正面から行うロックがこれまでにない止水性能を発揮し、衛生管理の必要な薬品・食品工場からも高い評価を得ているという。

創業当初、同社は主に公共工事を手掛け、官公庁や江戸川区で実績を積み上げていた。しかし、新井寿美子社長は、自身の入社を機に全ての事業を止水板の提案に変更することを決断。事業承継と転換を同時期に実現した。事業転換からしばらくの期間は、各企業に趣旨を理解されない状況が続いていた。しかし、2019年に起きた台風19号の発生以降は、「浸水被害は、各社の営業活動に大きな損害が出ることが判明し、事前対策さえ取れば被害を最小限に抑えられると、全国から問い合わせが届くようになった」と振り返る。結果的に新井社長の見立てに時代が後から追いつく形となった。

営業部長の後藤弘行氏は、「当社は、各社の日頃からの使用用途に合った提案から設計、施工、引き渡しまでの全てをワンストップで取り掛かっており、顧客からの『浸水ストッパーのおかげで災害を無事に乗り切れた』という報告が日々の自信になっている。今後は、当社の社員が防災士など多くの資格を取得しているという現実を全面に出し、他社との差別化を鮮明にしていきたい」と意気込みを語る。工期は標準なら2日程度、全国各地で対応可能というメリットも大きいようだ。「私は入社数ヶ月程度のキャリアだが、全ての顧客に丁寧なヒアリングと堅実な施工、手厚いアフターフォローを徹底する当社の方針に驚いた。社内教育も充実しているので、一日でも早く全ての仕事を覚え、全国の浸水被害の事前防止を進めていきたい」と営業部の野村蓮氏は話す。

「万が一に備えて被災の前に万全の対策を取る」。当たり前のようで、つい後回しにしがちな災害対策に旭日建設は全力を尽くす。後藤部長は「これまで複数の仕事に就いたが、本当の意味で誰かの役に立っていると実感できたことは初めての経験だった。年々深刻化する災害にその都度対応できるよう、当社も技術研鑽とサービスの充実化を図り、今後も全国の方々の安全確保に微力ながら貢献していきたい」と展望を語る。旭日建設の躍進が止まる気配はない。

新着記事

  • 2025.05.27

    ショールーム開設のハマニ。左官技術の伝承に全力を尽くす

    「とにかく職人の採用・育成の改革が急務だと感じた」。  左官・土木工事を手掛けるハマニ(静岡県浜松市)の河合滋社長は、慣習として続けてきた「見て学ぶ」「技術を盗んで覚える」という従来の職人文化に限界を感じ、体制の移行を決 […]
    クラフトバンク総研記者川村 智子
  • 2025.05.23

    「誰かの笑顔のために」、三瓶工業がDX駆使で新たなステージへ

     ㈱三瓶工業(山形県天童市)は2022年、設立50周年を記念して会社のロゴや制服、ヘルメットなどのデザインを刷新した。アイデア作りからデザイン製作までを一括で依頼した先は東北芸術工科大学。地元の芸大生との連携により、これ […]
    クラフトバンク総研編集長佐藤 和彦
  • 2025.05.14

    事前防災の定着に最善を尽くす 目黒建設業防災連合会

     目黒建設業防災連合会は2021年5月に発足し、初代会長には加藤公章氏(加藤電気工事)が就任した。同連合会は、目黒区内の建設・電気・設備・造園の4団体から構成されており、加藤会長は「地元の建設業が何をすべきかを突き詰めた […]
    クラフトバンク総研記者川村 智子
  • 2025.05.09

    若手による地域活性化に挑戦 平畑建設

     平畑建設㈱(広島県三原市)の平畑隆也取締役が、広島県建設業協会連合会・青年部会の幹事長に就任した。今年3月28日に開催した設立総会では、「我々の世代で新たな価値や経営モデルを提示し、未来を創り出せるよう全力を尽くす」と […]
    クラフトバンク総研編集長佐藤 和彦