地域密着をテーマに「美和建装=良心的な会社」の定着を目指す
更新日:2025/5/2

美和建装(愛知県あま市)の出澤雅司社長が、代表取締役に就任した時期が2006年6月。創業者である父親から「来月から社長になってほしい」と何の前触れもなく言い渡され、「深く考える時間もなく任される形になった」と当時を振り返る。社長になって初めて決算書を確認すると、赤字続きで借金が4000万円に及んでいるなど、内部が目も当てられない状況だったことが判明。2ヵ月後には、資金が完全にショートし、社員に給与が払えない事態に陥った。頭の中には「自己破産」という言葉が何度も浮かんだ。しかし、「長い期間をかけて信頼関係を築いてきた職人との関係をここで切る訳にはいかない」と、自身の保険を全て解約し、購入したばかりの土地を担保にするなど対応したことで、当座をしのぐことができたという。社長就任以降、様々な経験を積んできたが、「人生最大のピンチは、間違いなくこの時。最初にこのような体験をしたことで、余程のことがない限り動揺しないメンタルが出来上がった」と語る。

社長就任から数年近くは、なかなか新たに人を雇う余力がなかった為、見積・請求書の作成や営業、現場管理など、大部分の業務を出澤社長自身が担当することも多かったが、10年ほど前から「企業を永続させるには、誰が抜けても組織が機能する仕組み化が必須」と判断。自らの目標を「私が退職してから、会社が100年続く企業をつくる」と明言している通り、特に人材採用には力を入れており、毎年の新卒採用を続けてから5期目を迎えている。社員からは「即戦力となる中途社員を採用してほしい」との声も上がっている中、新卒にこだわる理由は「人口動態を考えると、人の確保が最優先事項。20年先を見据えれば、労力は割くが避けては通れない道だと捉えている」と見立てを話す。既に事業承継も視野に入れており、「社長として第一線を退いて、会長として次期社長のバックアップに徹する計画もある」と述べる。既に「責任は全て取るから、積極的な挑戦をしてほしい」と周知する出澤社長の基本スタンスは、社員からの厚い信頼を得ており、社員が能動的に活躍できる環境を整備することに気を配っている。


出澤社長は、「これまで塗装に近い領域を面的に広げていく活動が多かったが、『当社にとって、やはり地域密着は外せない』と再認識し、現在は土地を購入し数年後に地元で商業施設を建てる計画を進行している」と近況を語る。店舗ごとに発展するやり方でなく、商業施設全体で協力し合い、イベント・広告を打つなど、独自の集客方法で地域活性化に繋げることを第一に考え辿り着いた構想だという。「当社が存続できるのは、地域の進展があってこそ。今後は、生まれ育ったあま市を盛り上げていくことを念頭に、『美和建装=良心的な会社』という評価が更に定着するよう、最善を尽くしていきたい」と目標を述べた。来年5月には、新店舗を創設予定だが、どの場所にどのような戦略で出展し、エリアを広げていくかなどの詳細は「全て社員に決定権を預けて決めて貰う」と期待を寄せる。「社員がやりがいを持って、自ら動くにはどうすべきか」を常に考え、堅実な結果を出し続ける出澤社長が舵を取る美和建装。あま市がどのような形を経て、盛り上がりを見せていくか注目である。

この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。