ROOVの可能性拡張で、スタイルポートが次なるステージに進出へ
更新日:2025/5/2

スタイルポートの開発・提供する「ROOV」が、デジタルツインとしての可能性を拡張している。ROOVは、遠隔からでもリアルタイムにマンションや戸建てなど、住空間のイメージを可能にする3Dコミュニケーション・プラットフォーム。販売当初の主流は、新築マンション内覧時の不動産テックとしての利用だったが、設計の打ち合わせ時や、建物の管理にVRを活用する機会が増加。建設・不動産分野での空間把握に必要なサポートをウェブ上で展開している。

間所暁彦社長は、「ROOVがシェアを拡大するにつれて、これまでの営業活動支援というステージから、3Dを活用したコミュニケーションツールにまで広げられたことがエポックメイキングだった。特に戸建て住宅の場合は、大手メーカーは3D-CADを基にテクスチャーを用いるので、そのデータをROOVに取り込み、フル自動で成果物として届けられるメリットは大きかった」と近況の変化を話す。従来の機能にある人や家具の配置、採寸の表示、壁紙の色彩変更なども駆使することで、設計に費やす時間を半分以下に削減したケースも続出。関係者が一度も対面での打ち合わせを行わず、着工を開始できた案件も出始めたという。

最近では、音楽に特化した商業施設「Kアリーナ横浜」使用時の動線確認を目的にした導入もされている。間所社長は、「図面にしかない情報を3D-CG技術で立体化できる特徴を活かし、マンション市場以外の分野でも、更なる定着が進むよう努めていく」と意気込みを語る。BIMのデータは容量が重すぎて共有向きでなく、ROOVを使うと設計図を送るだけで、即座に現場のイメージができる。このスタイルポート独自のアプローチは、他社との差別化が鮮明で、需要にも合致している点に特質がある。

スタイルポートは今月、ヤマト運輸(東京都中央区)やソニーグループ(東京都港区)など総勢6社から、シリーズDラウンドとして合計約7億円の資金調達を実施。今回の出資者でもある野村不動産(東京都新宿区)とは、システム開発に関する業務提携を結んだ。既に黒字化を達成した現段階での実施を考慮すると、先々に想定するIPOを視野に入れ、全体のバランスシート強化・基盤の安定化に入ったと捉えることが妥当だろう。現在、ROOVの導入社数は約100社。間所社長は「当社も成長を続けるに従い、ようやく『業界全体の気運を構築していきたい』と強く思えるようになった。個別の利益に固執し過ぎるのでなく、どのような過程を踏めば業界にDXが普及し、利便性の追求が可能かを考えた活動も心掛けたい」と達観した一面も見せる。この先は、旧態依然とした要素の残る企業に対しての提案が予想されるが、それは「スタイルポートの真価を発揮する絶好の機会」と断言するなど、新たな挑戦を歓迎する素振りも見受けられる。

現在、ROOVを活用する主な層は不動産事業者やハウスメーカー、工務店となっており、間所社長は「いずれは、地場に根差した各地のゼネコンにも興味を持って頂けるよう、機能拡張を続けたい」という野望を持つ。製品を川上と川下、垂直・水平に展開したいという真っ当な考えであり、今後のどのような変遷を辿るのか興味深い。「当社のミッションは、『空間の選択に伴う後悔をゼロにする』ことだが、まだ現状でも『会社としてデジタル化に舵を切ったが、こんなはずじゃなかった』というお声を頂くケースも多い。このようなギャップを埋めるため、当社は引き続き『正しい理解に基づいた空間選択』をテーマに事業を展開する方針だ。業界にDXを浸透させるには克服すべき課題があまりに多い。しかし、ROOVが社会的インフラとして認知され、誰もが手軽かつ正確な住空間のイメージが共有できる日が来るよう、日々の活動を先鋭化させた組織運営を手掛けていきたい」。
この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。