難局を会社全体で乗り切る。アーバンライクが打ち出す新戦略
更新日:2025/4/28
住宅・不動産事業を手掛けるアーバンライク(熊本県荒尾市)は、医療・保育関連施設の建設に注力することを目指している。吉野悟社長は、「これまで福祉関係では、介護・障害者向けの施設を強みとしてきたが、経験の蓄積につれて、更なる可能性を追求したいと考え決断した。土地の仕入れから建築、売却までを手掛けられる当社の特徴を活かし、需要に合致した建物を作りたい」と意気込みを話す。デザイン・価格・対応・性能面の全てで定評のある同社が、医療・保育の領域でも特長を発揮できるか注目である。

吉野社長に、これまで1番の苦境を尋ねると「間違いなく創業期だ」と即答する。工務店で営業経験を積み、当時の社長から後押しされる形で25歳の時に起業した。しかし、すぐに信用を勝ち取ることができず、自分自身で住宅ローンを組み、自宅をモデルルームに改装したほど必死な綱渡りが続いていた。同時期には、「いずれ不動産事業が必須になる」という確信の下、宅建の受験勉強も遂行。無事に資格取得を終え、試行錯誤を諦めず繰り返しことで、「倒産の不安に押し潰されない組織運営に辿り着くことができた」と振り返る。創業当初のコンセプトは、「地域に根を張ること」と「輸入住宅のような家を国産の部材で作ること」。明確な概念は顧客の琴線に触れ、第1回目のイベントから70人以上を集客する結果を残している。その後は、受注する度に採用強化を続け、現在の社員数は110人近くにまで増員することができたという。

ウッドショックや物価高騰などを理由に、注文住宅の供給が大幅に減少する中、アーバンライクでは今期から生産管理部を創設した。部署では、既にある社内のソリューションやイノベーション、DXを掛け合わせることで、生産性向上と利益率増加を目指している。吉野社長が「前例が通用しない時代に突入したからこそ、会社全体でこの難局を乗り切る」と語る通り、最近では責任・決定権の移譲を進めており、社員の能動的な姿勢の確立とモチベーション向上にも直結している。現在、沖縄と福岡で予定する新しいリゾート施設の建設では、高まるインバウンド需要獲得のため、担当社員の全力を尽くす姿が見られており、既に権限を譲渡し始めた前向きな効果が出ているようだ。


「理想以上の暮らしを」をテーマに事業を進める吉野社長は、当面の目標に「10年以内に年商1000億円に到達すること」を掲げる。実現には、事業のブランド価値を高め、「九州を代表する企業」として更なる定着が必要など課題も多い。まずは九州一円でNo.1となり、その先に全国展開・海外事業も視野に入れたいという明瞭なスタンス。「当社の仕事は、建築不動産という手段で空間をデザインすること」と断言するアーバンライクが、今後どのような先行きを描いていくか目が離せない。

この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。