円熟期に入る石澤工業。若手とベテランの融合で更なる躍進へ
更新日:2025/4/30
鉄筋工事業を手掛ける石澤工業(東京都江東区)では、タン・ヴィン・ツイ・ユェンさんとニニ・ウィンさんが正社員として働いている。ベトナム出身のユェンさんは配筋の図面作成を、ミャンマー出身のニニさんは現場で組まれた配筋の検査を担当。2人とも母国では土木や設計など建設関係の仕事・研究を行っていたこともあり、比較的早く業務に順応できていたが、仕事で1番苦慮した点を尋ねると「日本語だった」と声を揃える。「日常会話にはない専門用語も多いので、当初はいつも片手に辞書を持ちながら作業をしていた」とユェンさんは語る。ニニさんも「現場では様々な職種の方と一緒になるので、空き時間に仕事と関係のない会話で距離を縮めたかったが、最初は気恥ずかしくて躊躇したのを覚えている」と振り返る。現在は筆者からの質問に即意当妙に応対する姿から、2人とも影でたゆまぬ努力を積み重ねたことが容易に推察できる。


石澤拓哉社長は、「建設業界の中でも特に鉄筋業は男社会という印象が強かった。この漠然としたイメージを当社が打破し、女性社員が社内外を盛り立てる状況を体現したかった」と2人を迎え入れた意図を明かす。「配筋検査を図面の段階から管理したい。それが叶えば鉄筋を組んだ後の検査も必要になるな」と考えていた各々のタイミングで、2人に巡り合えた縁にも石澤社長は感謝しているという。若い複数の女性のマネジメントに神経を使っているのではと尋ねた所、奥村修治工事部長は「『みんなが仲間で、同じチームとして会社を良き方向に動かしていくこと』を早期に理解して貰えたので、難しいことや障害になるものは何1つなかった」と答える。


実際に「休日で暇な時は、会社のオジちゃん家族達と一緒にお出かけすることもあって楽しい」という言葉が自然に出てきた。昨今、ワーク・ライフ・バランスに関する検証などが頻繁に行われているが、会社内での信頼関係の構築という面では案外シンプルな部分にヒントが隠れているのかもしれない。

石澤社長は「当社の至上命題は、期限内に安全かつ高品質な成果物をゼネコンに引き渡すことになるが、この数年間は順調に会社の若返りを同時に進められている」と現状を話す。来年には、ニニさんと同郷であるミャンマーの女性社員を受け入れることが内定している。


「この良い流れを味方に、事業承継も視野に入れられるのでは?」との筆者からの質問に、石澤社長は「今後、7人程度の若手社員が結束して会社の方向性を示すことができれば、世代交代の芽も出てくるはずだ。まだ実現には時間が掛かりそうだが、近いうちに現メンバーがその基礎固めを始めてくれると信じている」と期待を込めながらも冷静に分析する。ユェンさんとウィンさんの2人は「もっと早く正確に仕事を進められるよう精進したい」という思いが強く、会社を下支えする存在に成長する可能性が極めて高い。石澤工業は今、若手とベテランが理想的な形で融合を見せ始めた、円熟期に入りつつあると見て取れる。

「引き続き若手の採用・育成に力を入れることで、更なる組織の活性化を図っていく。建設現場は多数の企業と人が束になり、1つの目標に邁進していく魅力的な場所。常に対話を重視しながら、今後も社員が活躍できる場所を提供していきたい」と石澤社長は意気込みを語った。建設業界の希望として突き進み続ける石澤工業の一挙手一投足から目が離せない。
この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。