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「人」を最優先した職場づくりに全力を注ぐ 樹工務店

更新日:2025/10/16

「挑戦の種は尽きることがない」。

樹工務店(埼玉県さいたま市)の伊藤智樹社長は、50歳の節目を前に、未来を見据えた言葉を紡ぐ。高校卒業後に商社へ就職し、縁あって型枠工事業に入職。27歳で独立を果たし、2006年に法人化した会社は、来年10月には設立20周年を迎える。4人で始めた会社は、協力会社を含めると400人超が関わる規模へと成長した。しかし、伊藤社長の視線は現状の延長線ではなく、時代をどのように切り拓くかに注がれている。

伊藤社長は「型枠には多様な工法があるが、当社は全てに対応できる」と胸を張る。資材置き場の縮小や低騒音などの利点を考慮し、在来工法を選ぶ工務店が多い中、同社はシステム型枠の普及に注力。6年前には、欧州企業から日本市場を引き継ぎ、職人や工務店への理解を広げてきた。「巨大構造物でも高い精度を誇る優れた工法だが、残念ながら外資系メーカーが主導しているため認知度が低い現状もある。今後は広報活動の強化にも意識を向けた活動を続けたい」と意欲を見せる。会社は、資材開発にも注力しており、熱中症対策として熱を吸収しにくい水色のベニアを独自に研究している。近年では、アルミ工場を買収し、自ら図面を引きながら軽量化や品質の向上を果たせる環境を整備した。9月に販売を開始した新資材では、現場の知見を生かした工夫が随所に凝縮されており、既にエンドユーザーからも高い評判を得ているという。

現在、伊藤社長は会社の課題として「職人が働きやすい環境づくり」を挙げる。「かつては仕事一筋が美徳とされたが、今は休暇やプライベートを重視する若い世代の価値観に応えることが必須」と、4週8休や労働時間の管理を徹底する。人を雇うだけの対策には限界を感じているようで、「AIなど新たな技術の力を借り、効率化を図ることが不可欠。若者から『この業界で働きたい』と選ばれるようになるには、現段階から準備する必要がある」と危機感を示す。これまで様々な困難に直面しても、仲間からの支えも得ながら乗り越えてきた。かつてないほどの難局を前に、伊藤社長は「やはり当社は『人』を大切に今日まで事業を展開してきた企業。今後もこのスタイルを優先したい」と揺るがない姿勢を見える様子が魅力的である。

伊藤社長は、「当社を学歴や年齢に囚われない、力と技術で道を開ける誰にでもチャンスのある会社にしたい」と目標を掲げる。若くして独立を決意し、数々の挑戦を重ねて夢を形にしてきた軌跡があるからこそ、その言葉には重みがある。世の中は目まぐるしく変化するが、多くの「人」との関係性の集積により、1つの物を作り上げる過程は今後も不変である。「職人と共に次の世代を築いていく」。落ち着いた口調の奥に力強い覚悟が滲んでおり、今後も創業時の思いをカタチにするために最善を尽くしていくはずだ。

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