前例なきカイゼンに向けた進言。カナツ技建工業が業界の慣習打破に挑戦
更新日:2025/6/5
カナツ技建工業(島根県松江市)の経営企画室・情報技術グループは、社内外にICT・DX技術に関する提案やデータ推進などを行う専門部署として、国土交通省や島根県などに対しても前例のない進言をすることで有名である。所属員は、木村善信専門マネージャーと主任の北川直樹氏と望月裕司氏。この度、木村氏が3次元計測における「土木工事共通仕様書」に関する提言を行った。


土木工事共通仕様書とは、各建設作業の順序や品質証明基準、出来形管理基準、施工の留意点など、工事全般の運用について技術的な仕様を取りまとめたもの。公共工事を手掛ける上で施工者は、同仕様書に則り業務を進めなければならないが、「現在の仕様書では、デジタル情報の活用に対応しきれなくなっている」と木村氏は語る。
現在の共通仕様書の出来形管理方法では、3次元座標値の情報を基に基準高情報(Z)、中心位置情報(X、Y)を表計算ソフトに入力し、設計と出来形の偏差を算出する。設計データから施工まではデジタル情報を活用するが、最後に従来のアナログ管理方法に変換しなければならない現実がある。この状況に木村氏は、「既存のアプリ・端末などの併用で、業務効率化を実現できるはず」と話す。


実際に情報技術グループでは、「規格値スペースによる出来形管理方法」という、3次元座標で簡単に出来形を管理する手法を見出し、デジタル情報をアナログに置き換える手間を削減することに成功。北川氏は「3次元計測データをそのまま反映すれば、無駄な作業を挟むことなく、業務の効率化が可能なことを証明した。今回のやり方をなるべく早く業界全体に定着させていきたい」と語る。このような少しの工夫や取り組みで、生産性向上を行える事例は全国各地に増え始め、既に複数の企業が共鳴し連携した動きを見せているという。

また木村氏は、現在のBIM/CIMデータについても、「設計では、現況や施工スペースなどの分野が、あまり考慮されていない」と考え、「建設プロセス全体の業務効率化を実現させるには、設計段階で高低差を考慮した3次元設計・BIM/CIMデータが、1つの解決方法になり得る」と主張。「施工プロセスでBIM/CIMデータを作成・活用するならば、その都度発生する報告書を作る業務の削減などを検討・実施をすべき」と意見を出している。

「現在の状況は、電子納品が始まった際、施工プロセスが発注図のエラーを修正していたケースと似ており、このまま現場の声を反映させずに物事を進めると、当時と同じように施工プロセスに膨大な負荷が掛かる可能性がある」という強い懸念を木村氏は抱く。3D技術を筆頭にしたデジタルデータは、やり方次第では無限の可能性に満ちている。正に「あとは運用次第」という転換期に差し掛かっている状況だ。
木村氏は、「i-conがカイゼンを前提に推進しているように、BIM/CIMも結果を急ぐのではなく、未来への過程としてカイゼンを繰り返しながら進める必要があると感じている。当社が提案する取り組みが、今後の建設業界を支える将来世代の技術者の礎になれるよう、果敢な挑戦を続けていきたい」と展望を述べた。

官民双方での前例踏襲が根深く残る建設業界。目指す到達点までの道のりは果てしなく長い。しかし、真の意味での「ICT・DXを活用した生産性向上」を実現するには、この茨の道を攻略する必要がある。これから各社で巻き起こる少しの工夫や気付きの波が、どのようなムーブメントとなり波及していくかを定点観測すべきである。
この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。