久志本組が200年企業に向けた取り組みをスタート
更新日:2025/5/29
久志本組(三重県四日市市)の清水良保社長は、日頃から社員に「地域の方から頼られた時に『嬉しい』と素朴に感じられる人であってほしい」と伝えている。会社は、創業から120年以上の歴史を四日市市に刻み続けてきた。シンプルでオーソドックスが故に力強い理念は、これまで数多くの社員の心に影響を与えており、現在は新築工事だけでなく、メンテナンス・事業継続型改修、エコ・省エネ対策など、様々な工事を手掛けている。


自身は、ゼネコンの施工管理技士としてトンネル掘削工事や災害復旧工事に従事後、2009年に入社。2011年には6代目社長に就いた。「当時は、社員・売り上げの双方が現在の3分の1ほどの状況であり、会社として様々な面で不安定な状況だったが躊躇は無かった」と振り返る。当時の年齢は31歳。現場業務にある程度の自信はあったが、「経営の『いろは』は疎か、決算書の読み方すら知らなかったこと」を痛感し、グロービス経営大学院に入学。社長と学生という二足の草鞋を履き、一心不乱に学び続けた結果、同じ境遇の多くの仲間を得ることができ、MBAの取得に至ったという。


会社の軌道修正の呼び水となったのは、「低迷期に営業・工事が一丸となって受注した国土交通省の堤防補強工事」。心身共に疲弊した時期もあったが「自分の心が折れず完遂できたのは周囲の方々が私を支え続けて下さったから」と断言する。その後、紆余曲折はありながらも、直近期の売り上げが55億円を超えるなど、地域の老舗建設企業としての地位を確固たるものにしている。「祖業は港湾工事だったが、今では建築工事が売り上げの多くを占めるように変化した。今後は、土木工事における橋梁補修等の維持修繕分野も盤石なものにしたい」と時代に即した未来図を描いている。

2023年にはZEB対応の本社を新築し、同年度の「三重のサステナブル経営アワード」を受賞した。2025年は健康経営優良法人に認定されるなど、企業としてのアップデートを加速させる他、地元スポーツチームやこども食堂への協賛、学校への出前授業や現場見学会を通じた職業観の育成にも貢献する。清水社長が自ら社員交流会や社内イベントを企画することもあるなど、約80人を雇用する企業には稀有なフラットな社風が特徴だ。個々の取り組みが相乗効果を生み出し、全社員の約4割が30歳以下という現実が、これからの人材確保の在り方を指し示している。

200年企業を目指すに当たり、常に清水社長の心に存在する言葉は「人と地域に頼られる存在であり続けること」。今年2月には、大雪で立ち往生の状態が続く中、国道事務所の要請を受け道路規制や除雪を実施したが、「地域建設業を生業にする限り、緊急時に率先して現場に駆けつけることは使命」と携わった工事は自社の一部という認識を体現する。多くの社員が脇目も触れず出動を希望する際、目頭が熱くなる瞬間もある。しかし、地域に安全・安心・快適性を提供する「頼られる企業」「頼られる人」として確立するには「当然の宿命」と銘打ち、久志本組は今日も可能性の拡張を続けている。

この記事を書いた人

クラフトバンク総研 記者 信夫 惇
建通新聞社に10年間勤務。東京支局・浜松支局・岐阜支局にて、県庁などの各自治体や、建設関連団体、地場ゼネコン、専門工事会社などを担当し、数多くのインタビューや工事に関する取材に携わる。
2024年にクラフトバンクに参画。特集の企画立案や編集、執筆などを手掛けている。