創業者の使命を全うする。まちだが展開する「最良への共創」
更新日:2025/5/20
「日本で一番、GEH(社員幸福度)が高い鳶専門会社を構築する」。

まちだ(福岡県直方市)の創業者・町田 寛明社長の掲げる目標だが、「きっかけになる出来事が2つあった」と過去を振り返る。1つは、下請け会社の社員が亡くなる事故を起こしてしまったこと。2つ目は、北九州マラソン・スタート地点のすぐ側で施工中だった小倉駅前の足場が崩壊し、開催の危機を招いてしまったこと。後者は、行政も巻き込んだ大騒動になったが、全関係者の総力により無事に時間通りの開催ができた。しかし、前者に関しては、今も思い出すと涙を浮かべるほど深い傷を負っており、それまでの「現場で怪我は付き物」という甘かった認識を一掃し、会社を挙げた安全意識の徹底に繋がったという。


創業以来、55歳で会社を事業継承し、余生を穏やかに過ごす計画があった。だが、上記2つの事故を体験し「創業者として、会社に骨を埋めることが使命」と翻意。社内の組織化・永続を見据えた経営を意識し始め、「まずは、所属する社員が幸せを感じられる環境作りから始めた」と変化を語る。その後、「自社にとってプラスになる知見を得るため」と、各地で活動する同業者の経営スタンスを学ぶための全国行脚を敢行。同世代で同じ志を持った社長と知り合えてからは、切磋琢磨しながら相互補完する関係を築き上げ、「何事にも揺れ動くことのない精神力が付き始めた」と近況を話す。2022年度から「人を軸にした資本主義」と銘打ち、会社の経営理念に「最良への共創」を標榜。「関わる全ての人と共に、最良の仕事・物・心を創り、地元・地域から全社会に貢献すること」を具現化するため、全方位を視野に入れた経営を心掛けている。

来年度からは、人事考課制度や組織編制など更なる変革の浸透を試みる方針だ。その理由を町田社長は「国内で定期的に発生する豪雨災害に対して、インフラを守ることが建設業に携わる者の責務。特に鳶の仕事は、安全・安心を守るという観点では1丁目1番地の職種に当たる。能登半島地震でも再認識されたが、日常の段階から万が一に備える啓蒙ができるよう、早期に盤石な体制を作りたい」と思いを述べる。まちだを、社会性のある利他的な企業にすることを目指す、町田社長の象徴的な考えであり、掲げた経営理念がどのように文化として定着していくか注目である。


「足場は、地図には残らないが、心に残すことができる芸術作品。ゴールへの成長を新コンセプトに、地域のインフラを命懸けで守りながら、社員が心地よく働き続けられる、意義・意味のある職場空間を確立していきたい」と並々ならぬ決意を見せる。町田社長の今後のテーマは、「後世に自分の仕事は絶対に残さず、『人』を残すことに全力を尽くすこと」。AIには決して置き換えられない、足場という確固たるステージの上で、どのような躍進を見せるのか。当社では、まちだが手掛ける飛躍の軌跡を引き続き追っていく。

この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。