誠建設が5年後を見据えた体制づくりへ
更新日:2025/4/25
「建設会社は、直営部隊を抱えてこそ意味がある」。
誠建設(徳島県小松島市)の中野寿之社長が、日頃から周囲に伝えているポリシーである。その理由を、「緊急災害時、即座に現場に出動できる施工できる部隊を備えていなければ、それは県民の生命・財産を失うリスクが高まるから」と明言。同じ県内には、職人を持たず、現場管理の実施すら疑問に感じるほど、中抜きに必死な企業は少なからず存在する。この現状に対して中野社長は、「最悪の事態が起きる前に、何とか良い方向に変えていきたい」と並々ならぬ気持ちを前面に出す。

誠建設が転機を迎えたのは、入札制度に工事成績が反映されるようになった2009年前後。それまで工期厳守で期待値以上の成果を残すなど、施工には絶対の自信を持っていた。民主党政権以降、廃業の道を選ぶ仲間も増えていく中、「工事成績が入札制度に考慮された現実を突破口に、まだ当社の可能性を拡張することができるはず」と邁進する道を決断した。中野社長には、父の急死により24歳で社長に就任した経緯がある。社長就任から長い期間、父に仕えた重鎮が社内の大部分を取り仕切っていた為、自身が考える組織運営を表現することは、全体に対する配慮もあり控えていた。しかし、時が経つうちに社内工事部の重要性が認知され始めると、「ようやく思う通りの経営を手掛けられるようになった」と振り返る。就任当初にドラスティックな変革を起こさなかった理由を「現場から会社を変革できる社員を育てられてなく、強行すると社内のバランスを崩す可能性があったから」と即答。中野社長には、経営者として冷静かつ客観的に状況を分析し、敢えて自我を出さない選択ができる器量もあると見て取れる。


一昨年には息子である取締役・中野栄之氏が入社し、既に一級土木管理技士と二級建築士の資格を取得している。会社としての寿命が30年近く伸びた結果にも、「建設会社は、総務主体でなく現場主義で会社運営を考えなければならない。現場を熟知しなければ、利益を出して効率化は図れない。このDNAを引き継げるよう、しばらく息子には現場での経験を積んで貰う」と長期的な姿勢を示す。中野社長が「特に私の専門外であるICTと3Dを取り入れ、若い世代に早期に慣れて貰える環境を作る」と語る通り課題は多い。しかし、この10年では、建築部門の技術力改善も急速に進むなど、会社が一丸となるプラスの要素は溢れていることが特徴だ。


中野社長は、既に「5年以内のことは考えるが、その後は皆で真剣に考えて決めていくように」と社員に伝えている。「実の親が言うことを、息子はあまり聞く耳を持たない」という傾向も熟知しており、「社長は色んな魅力的な人に会うこと。そして、その人の行動でなく思考を真似すること」という自身が糧にした金言も敢えて伝えてはいないようだ。現在、栄之取締役は商工会議所や団体など、中野社長が通ってきた関係を受け継ぎ、新たな経験を積む努力を続けている。中野社長が最後に見せる集大成の後、誠建設がどのような変貌を遂げているか大変興味深い。

この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。