安全な無足場工法を浸透へ。MASが手掛ける新たな挑戦
更新日:2025/5/2
MAS(東京都武蔵野市)の佐野純平社長は、ビル・マンションにある窓の清掃とシーリング防水工事に携わった経験を持つ。高所からロープで吊るされて行う清掃作業と、組まれた足場の上で実施するシーリング防水工事。自身が蓄積した2つの体験を掛け合わせることを想定し、「建物の密集地で足場やゴンドラが組めない現場では、ロープにぶら下がりながら施工する無足場工法に需要がある」と結論を出すことができたという。

無足場工法に特化すると決めた時期は、法人化から1年近く経った2017年。個人事業主の頃から少しずつ取り入れてはいたが、フルハーネスなど装具面の安全性の徹底や複数の資格取得など、あらゆる不安要素をクリアにしてからの船出を決断。安全対策に関する設備投資の実施や、講習参加により知識を蓄えたことで、リスク削減ができるようになったことが大きかった。無足場という特殊技術にこだわる理由を、佐野社長は「首都圏では、想像以上に『足場を組めるスペースの確保は難しそうだが、何とか対応してほしい』と懇願されるケースが多かった。安全面を万全にできたタイミングを機に無足場工法に特化した」と経緯を語る。顧客からは「漏水調査や漏水補修、部分的な塗装など、局所の作業でも依頼がしやすく、安価で工期も短いので助かる」との声も上がっており、MASが「難易度の高い無足場工法の実績がある会社」として業界内で浸透し始めている点も興味深い。


現在の課題を佐野社長は、「会社の組織化と拡大を実現すること」と即答する。きっかけは、数年前に参謀として、ずっと共に歩んでくれると信じていたNo.2が辞めたこと。その時、「初めて誰かに依存し切っていた経営の恐さを知り、徐々にでも誰が抜けても回る仕組みを作らなければ未来はないと思い直した」と本音を話す。まずは、社内で自身が抱える業務を少しずつでも社員に任せるよう心掛けており、「経営に関する数字の見える化」なども進めるため、現在はDX導入も本格的に検討し始めているようだ。

佐野社長は、「無足場工法が公共工事にも積極的に採用されるよう、当社の活動を通して安全性を業界全体に示していきたい」と展望を語る。最近では、「過去の成功体験に固執し過ぎたが故に、そのやり方に有望な若手が不満を覚え、退職に直結したという話を頻繁に聞く。このようなケースを他人事と捉えず、若い社員に働きやすい環境が提供できるよう、日々のアップデートを繰り返していきたい」と意気込みを話す。「手遅れになる前に、あらゆる手段を尽くす」。この言葉を象徴するように、既にMASでは、建設キャリアアップシステム・グリーンサイト・Buideeの登録を行っており、どのような状況に陥っても生き残れるよう体制強化を進めている。今後、首都圏で無足場工法を用いたビル塗装・修繕工事が行われていた場合、その担当企業がMASであったという可能性は日に日に高まっていくだろう。

この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。