設立を機にM&A体制の強化を実現へ MDホールディングス
更新日:2025/9/12
今年1月17日付でMDホールディングス(島根県松江市)が設立された。同社は、企業グループの組織再編や事業の分社化、松江土建(島根県松江市)の株式集約・買い取りなどを目的に創設。1月23日には、M&Aにより山口県と広島県の建設会社と持株会社を子会社化し、経営資源の最適化とリスク分散を目指している。川上裕治社長は「当面は、この2社の基盤を盤石化させることに集中していく」と意気込みを見せている。


10年近く前から松江土建の社内会議では、県外進出を謳っていた。しかし、様々な要因を前に頓挫を続けてきた現実に直面していた。この理由を突き詰めると「私自身が本業の経営体制を見直してまで、取り組む覚悟がなかっただけなのでは?」との結論に行き着き、取締役を務めていた川本文之氏に、MDホールディングス出向への白羽の矢が立ったという。川上社長は、「確かにサラリーマンとしての部門長と中小企業で経営を担うのは、意味合いが全く違うとは理解している。しかし、松江土建の土木部だけで40億円近くの売り上げを残し続けるなど、社内での実績は申し分なく、また取り組む熱意にも溢れ、これ以上の適任は居ないと考えた」と実感を込めて語る。何より広島・山口のエリアが非常に魅力的であり「このチャンスを逃したら、次はいつになるか分からない」という焦りも背中を押し、新たな船出を迎える覚悟を決めた。

これまで松江土建は、主に島根県・鳥取県を対象エリアに、現在進行形で右肩上がりの成長を続けている。しかし、川上社長は「近い将来、必ず限界点を迎える時期が来る。今からその時を想定した備えに入らなければ手遅れになると会社設立を決断した」と本音を話す。また「『現状維持に必須の売り上げを継続的に保つには、地元にこだわりを見せている限り実現できない』と真の意味で視野を外に向け、行動に出る第一歩が必要だった」と固い決意を覗かせる。この流れは松江土建内にも伝播しており、「これまで『転勤』という概念すら皆無だった社員に、良い意味での選択肢を与えることができた」と話す通り、新たな渦を組織内外に生み出すことに成功している。

オーナー会社ではない松江土建出身者が、地場に根差したオーナーであった建設会社の指揮を執る。頭では把握していたつもりだったが、実際に手掛けてみると想像以上に骨の折れる作業で、「今までの人生にない試行錯誤を繰り返している」と述べる一方、「それ以上の充実感も味わえている」と笑みも見せる。直近で抱える全体の課題は、「若手技術者の育成」。安定的に新卒社員を採用できる体制への再構築は急務であり、それには公平公正な給与・人事・考課制度の策定が必要である。技術的な研修の際は、松江土建と連携できる強みもある。しかるべきタイミングで次なるM&Aを視野に入れており、最近では様々な金融機関や仲介業者から子会社化の提案もあるようだ。川上社長は「どの企業と組めばシナジー効果を与えられるかを最優先に考える」と断言する。「西に行くか、東に進むべきか」。詳細は未定である。しかし、常に一歩先を見据えながら挑戦するMDホールディングスのスタンスだけは、今後も変わらないはずである。

この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。