「さび止め」で可能性を拡張。日新インダストリーがニッチな需要獲得を継続
更新日:2025/5/2
「製品を選ぶのは我々メーカーでなく、顧客でありマーケット」。
この基本スタンスを堅持するため、川西紀哉社長は溶融亜鉛めっき補修剤メーカー「日新インダストリー」に入社後、間もなく社内での改革を実施。「異常に価格を釣り上げて、一部の企業にだけ供給すれば成り立っていた仕組みを、適正価格に見直し、幅広く浸透させていくことを心掛けた」と当時を振り返る。社内からは「勝手に従来のやり方を変えるな」と猛反発もされた。しかし、「顧客からは『高すぎる』という声も聞こえてきており、このままでは時代の波に取り残される」と強引に舵を切ったことが、現在の売り上げ5倍近くにまで押し上げる結果に繋がったという。

製品の販売は、代理店とも連携する一方、直接訪問する営業も「顧客からの要望を聞ける貴重な機会」として重視。今年4月には、一旦停止していたオンラインショップ「Nissin InduSTORE.」も、より細かな要望に応じるための窓口として復活させ、通常より少ないサイズの塗料をテスト販売してみるなど、オンラインならではの試みも始めている。3月にリリースした新製品「NiNLab(ニンラボ)シリーズ」も順調な売れ行きを見せており、新製品の使用を機に、日新インダストリーの主力塗料「ジンクリッチペイント」を知り、定期購買に繋がるという理想的な循環も見せ始めている。



今まで組織運営の他、塗料開発や営業と、主要事業の全ての責任を川西社長が担ってきたが、「私自身は、50歳で第一線から退くことを決めた」と表明。「ある程度、組織を軌道に乗せることができたので、この先は将来を背負う若者に任せ、私はバックアップに徹する形を取るべきと考えた」と理由を話す。塗料の中でも「さび止め」というニッチな分野で活路を見出し、可能性を拡張することに成功した。しかし、「業界内での需要は限られており、売り上げ倍増が簡単に見込めない産業の為、当面の目標は現状維持と言わざるを得ない。現状維持を積み重ねた先に、斬新な選択肢を生み出していけるよう、あらゆる模索を繰り返していきたい」と気を引き締めながらも希望を語る。「溶融亜鉛めっき業界では、限られた用途のため専用品がなく、代用品で対応している現場がまだ多い。当社は、この細かいが確実に存在する需要を重視し、引き続き独自の開発や普及促進を手掛けていきたい」と展望を語った。具体的ではないが川西社長には、複数の企業からM&Aの検討要請などもきているようだ。現在地を正確に把握する反面、次なる手段も水面下で探し続ける日新インダストリー。川西社長が50歳を迎える時、会社がどのような変貌を遂げているか楽しみである。


日新インダストリーのTwitter https://twitter.com/niszinc
川西紀哉社長のTwitter https://twitter.com/niszincCEO
日新インダストリーのInstagram https://www.instagram.com/nis_zinc/
この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。