三栄工業が新たな業界づくりに挑戦
更新日:2025/5/1
昨年11月に三栄工業(茨城県石岡市)が、新社屋・研修センターを創設した。1年以上を掛けて行政から許可を取り、パチンコ店だった建物を大幅にリニューアル。軽部治社長は、「従来の事務所内では、増え続けていた社員の収容が困難になると、新たな事務所の建設を決めた」と経緯を語る。これまで大規模な社内会議の際は、近くの公民館を借りるなど不便なケースも増えており、一堂に会するには手間が掛かることも多かった。新社屋では、研修ができるスペースの確保やオンライン環境も完備されており、いずれは他社に貸し出すことも考慮した設計となっている。


軽部社長は、大林組(東京都港区)で勤務後、父親が創業した同社に参画した経歴を持つ。家業に戻る前から、「早期に会社の若返りを果たし、規模を拡大してみせる」と心に誓っていた通り、27歳で社長に就任。「今まで蓄積してきた経験を還元したい」と、当初から様々な手を尽くしたが、「即座に年上の職人などから理解を得ることが、想像以上に難しい現実に直面した」と当時を語る。その後、理屈を先行させるのではなく、自ら率先して身体を動かし続けたことで徐々に打ち解け始め、「自分の思いが正確に伝わるまで、10年近くの月日を費やしていた」と率直に話す。極めて若い時期にトップに就いたことで、社内外からの信頼を勝ち取ることに苦労したが、「自分にしか実現できないことを成し遂げる」と決意。YouTubeやXなどSNSを駆使することで採用面を活性化し、社員数を入社前の3倍以上にするなど、目を見張る経営手腕を見せている。

これまで管工事を主体に事業展開をしてきたが、軽部社長は「これからは建築工事の元請けとしての動きも加速させる」と基本方針を述べる。設計通りの施工だけでなく、顧客からの要望を具現化したいという意向の表れであり、既に具体的な取り組みも開始。「当社からもベストフィットな提案をすることで、お客さまの需要を満たせるよう努めていきたい」と思いを込めて述べる姿が印象的である。


社員には20~30代の若手も多く、「人材教育のマニュアル化を、生涯賭けて確立することが私の使命」と断言する。技術の継承は一朝一夕にはいかないが、「堅実な歩みを続けることで成し遂げてみせる」との意思は誰よりも強い。茨城県内には現在、自身の携わった建物が50~60棟近く存在しており、その横を通る際は「いつも何とも言えない高揚感を感じることができる」と代え難い喜びを話す。今後は多様な企業と連携し、AIなど最先端の技術を駆使する計画もあるようだ。「従来の枠に囚われず、新たな建設業界を作り牽引する」。軽部社長の掲げるベクトルは常に明確で、新たな可能性の創出を期待するのは筆者だけでないはずだ。

この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。