専門工事業者の処遇改善に着手 静岡県鉄筋業協同組合
更新日:2025/6/2
静岡県鉄筋業協同組合の國井均理事長(芳和建設工業・代表取締役)は、32歳で同組合の青年部を立ち上げ、38歳で全国鉄筋工事業協会の代表幹事を10年ほど務めた経歴を持つ。当初から一貫して掲げてきた理念は「建設業を標準の業種に押し上げること」。サービス業を経て、25歳で芳和建設工業を創業した國井理事長にとって、建設業は魅力的な仕事ではあるが、それまで慣習となっていた事柄は異常に見え、「この異質な点を直していかなければ、建設業界が次のステージを迎えることはない」と考え続けてきた。

全国的に鉄筋工事業に携わる職人の処遇改善が課題となっているが、静岡県鉄筋業協同組合としては、「県内の価格崩れは起きていない」と断言する。その理由を國井理事長自身は「組合員相互で、処遇改善に取り組んでいるから」と答える。工事が終わって初めて利益を把握するのではなく、事前に労働生産性を考慮し、法定福利を含めた労務費を算出し、現場には何人が必要なのかを正確に出さなければ、いずれショートする現実を指摘。赤字になった要因を特定し、全てを理解した上で見積もりを提出することを徹底してからは、「一定の水準を確保できるようになった」と振り返る。最近では、この静岡での成功事例を活かすため、全国の団体に一連の流れを教示するなど、建設業界に新たな流れを生み出せているようだ。

現在は、国が推進する「新・担い手3法」により、「管理者だけでなく現場作業者にまで、賃金が行き届くかを注視している」と述べる。週休2日制を浸透させると、日給で働く人が多いため、実質の給料が減るという意見がある。これに対しては、「建設キャリアアップシステム(CCUS)とも連動することで、標準労務費を保ちつつ、社員の給与を上げる仕組み化が必要」と具体策を提示。CCUSの普及には注力するが、「資格を所持していても、職人自身がレベルアップを果たさなければ意味がない。CCUSの浸透と共に、加入しても技術向上を果たさなければ、無条件で給料が上がる訳ではないという事実も周知しなければならない」と全体を俯瞰したバランス感覚を見せている。

國井理事長は、建設業界内で影響を受けた人として「建設産業専門団体連合会の岩田正吾会長」と即答する。若い頃から同じ経営者として「現場で働く人々を最優先に考えた経営をする」という同じの信念を基に切磋琢磨してきた。今後も「建設会社は、自社で職人を抱え教育してこそ意義がある」という共通認識を掲げ、建設業の改善に真摯かつ大胆に取り組んでいく。「静岡だけでなく、北陸や富山、福岡などの現場では、職人の処遇改善が進んでいる。この良いスパイラルを全国の専門工事会社に繋げられるよう、全力を尽くしていく」と意気込みを述べる。國井理事長の中には、常に「現場で働く専門工事業者が報われてほしい」という熱い気持ちがある。各地に波及し始めたこの現象が、徐々にでも全国に届くことを切に願っている。

この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。