新・担い手3法を追い風に、静岡県左官業組合が可能性を追求
更新日:2025/5/2
昨年5月15日に開催した静岡県左官業組合の総会で、新理事長に中道芳宏氏(中道工業・取締役会長)が就任した。長年、副理事長としての役職を勤める中、前任者からの重責を担う形でバトンを引き継いだことを「身に余る光栄だが、プレッシャーは大きかった」と本音を述べる。1期目に当たる今期は、優れた塗り壁を通じて、魅力ある左官の技術を周知することや、人手不足の中でも技能者・後継者の育成に注力。伝統工芸の継承を視野に入れた組合活動を実施している。


組合として目下の課題は、顕著な担い手不足に対する措置であり、「左官職人の減少にこれ以上拍車がかかると、いよいよ現場が立ち行かなくなる」と危険性を指摘する。既に職人さえ揃えば即座に向かわせるべき魅力的な案件も、断腸の思いで断るケースも増え始めており、即決策を必要としている。日本左官業組合連合会では、建設技能人材機構(JAC)と連携していることもあり、組合企業ではインドネシアからの特定技能外国人を迎え入れる近年特有の変化も表れている。しかし、慢性的な人手不足を外国人の雇用で凌ぐ以外の方法は、現段階では生まれていないのが現状だ。


中道理事長は、国が推進する「新・担い手3法」に関して、「私たちのような専門工事業者にとっては追い風となる」と分析する。現在は、60歳以上の職人が1/4ほどを占める状況と言われており、この大半が10年後には引退する。国も従来の元請け主体の仕組みを変革しなければ、業界全体の傾きを修正できないと判断した結果であり、組合にとしては、何とかこの流れを活かそうとする意向のようだ。「現状維持を続ける中で、何とか日本人の若者が入職できる体制を整える」との意見も多いが、中道理事長は「個人的には、これまで培った技術を継承し、現場で正確な業務に当たれるならば、その対象者は国籍・性別などで区分けすべきではないと考える。逼迫した状況に変わりはない。この難局の打開策を見出すためにも、組合全体で可能性の模索を続けたい」と覚悟を示す。


左官は飛鳥時代から脈々と続く工種であり、大型建築や住宅、商業施設など、左官なしでは成り立たない仕事は数多く存在する。この現実の周知には「業界全体で合意した活動を見せなければ、入職者の増加どころか崩壊に直結するリスクすらある」と中道理事長は警鐘を鳴らす。必須事柄は、「若手の採用・育成と、左官業のPRを徹底的に強化すること」。時代の変遷もあり厳しい局面を迎えているが、今後も静岡県左官業組合は団体として、生き残りのために全力を尽くしていく。

この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。