SSが「教育」重視の施策で業界の先陣を切る
更新日:2025/6/5
足場施工を手掛けるSS(愛知県豊田市)は、奨学金を抱える社員の負担を軽減する体制を整備した。同体制は、今年4月から愛知県が開始した「あいち奨学金返還支援ネット」と連携しており、最大5年間・月間3万5000円を会社側が補助していく方針である。

今回の決定を榎本智仁社長は、「社会に出た直後から数百万単位の借金を背負いながら働く若者を見て、当社独自の手法で社員をサポートすべきと判断した」と経緯を語る。有望な若手が多い中、学生の半分近くが奨学金を利用する現状を勘案し、「社員が本当に求めていることは何か?」を突き詰めた上で決断した。榎本社長の「やる気さえあれば、どんな人でも積極的に雇用し、社員が背負う重荷を軽くしたい」という意志は固く、採用面の強化にも繋げていく予定である。

SSには、2019年に元銀行員の溜渕明氏、2021年に中学校の校長だった杉浦俊孝氏が入社した。2人を招聘した理由を榎本社長は、「職人の教育を徹底することで、『40歳で定年』とも揶揄されてきた足場業界の現状を、何とか良き方向に変えたかった」と話す。職人が70歳まで働けるようにするには、現場から離れても仕事ができる環境の確保が必要。これらの実現には、未経験者からでも職人を一人前に育てられる人材が不可欠という結論に至り、2人の参画を決めた。杉浦氏は「入社前は不安も大きかったが、『人を育成すること』は、どの業界でも普遍的なテーマと捉え、これまで培った知識と経験を還元することに注力した」と本音を語る。入社直後から県内の学校と提携し、インターンシップや出前授業なども実施。SSが提供した足場を教育活動に活用している学校も10数にのぼり、各地に建設業の重要性・醍醐味などを啓発している。


溜渕氏は、自身が所有するファイナンシャルプランナーの資格などを活かし、各校で義務化されている金融教育に関する講師として参画する。生徒に対して、給与明細の読み方や税金の知識、資産運用の具体策などを伝授する内容は好評を博している。最近では、ジュニアマイスター顕彰制度などを活用した資格支援に注力しており、教育と資格取得面のサポートも手掛ける。溜渕氏は「当社にもベトナム人の留学生が2名在籍しており、現段階から資格に関する教育を徹底しておくことが、今後の会社発展に繋がっていくと確信している」と見立てを語る。足場フルハーネスや高所作業車など、対象となる資格の範囲は多岐に渡っており、職人が新たに活躍できる分野の拡張を会社一体で行っている。


榎本社長は、「企業の永続を考慮すると、現段階から社内外での教育面を強化しなければ、その先に辿り着かないと悟った。今もトライ&エラーを続けている状況だが、これが未来に繋がると信じて業務を進めていきたい」と展望を語る。既に会社では社会保険や退職金制度、福利厚生なども完備。杉浦氏と溜渕氏に対しては「私のことは気にせず、思う存分やり切ってほしい」と全幅の信頼を寄せ、一部始終を見守る姿勢を堅持している。「『会社は公器』という金言通り、当社は日本の未来を創るために存在するものと捉えている。今後も先陣を切った努力を重ねることで、建設業界の躍進を下支えしていきたい」と強い意欲を示した。

この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。